山脈のお前さんよ
俺には
美しく雄大な山は
お前だけだ
生まれた時から
お前はそこにいた
無我夢中で自転車を
乗り回した日も
胸に焦げ跡つけた日も
無心に星空を見上げた日も
町を離れ
俺の瞼から
お前の姿が消えても
記憶の姿と同じまま
お前はおかえりと言った
年を重ね
傷つき傷つけ
強くなり弱くもなり
幸せであろうと
打ちのめされていようと
お前はあの頃と変わらず
今の俺を見ている
泣きながら
お前に語りかけた夜
黒い影と灯りは
何も言いはしなかった
責めもせず
笑いもせず
あるがままをあるがままに
冷たい颪を吹きつけ
答えなどなかった
策などなかった
だが家に帰ろうと思えた
お前は雪の中にいて
寒くはないのか
俺は寒い
だが白いお前も
変わらず美しいから
俺は朝日も夕日も
お前と見ている
いつか死ぬときゃ
お前を眺めていたい