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〜 春風と小悪魔 〜 第六話(終幕)

 †GATE6 寒い朝の温もり


 辺りの空気も寝静まり静寂に包まれている宿の一室にシオンとアイナがいた。


 アイナがアービィを怖がるのでアイナが寝付くまでシオンが側にいてやる事にした。アイナはベッドに潜り込んでいた。

 

 シオンはアイナに背を向けベッドにもたれ掛りアイナが寝付くのを待っていた。


 するとなにやらロビーの方から音が聞こえてくる。

 

 シオンはアービィの事を聞いていたが、本当に動き出すとは思ってなかったので今一実感がなかったが、本当に動くんだなと思っていた。


 肝心のアイナは眠れずにいた。


 シオンが側にいてくれるが、怖いものはやっぱり怖いのである。アイナは気を紛らわそうとシオンにしゃべり掛けた。


「ねぇ? シオン―ん 何かお話してくださいですぅ」


 何時も元気一杯で悪態を放つアイナは何処にいったのかと思う位に甘えた声を出して言ったのでシオンは、何だか可笑しくなった。


「なんだよ。眠れないのか?」

 少し笑いの交じる声でシオンが聞いた。


「なんでもいいですぅ。シオンの事とかぁ」


「俺の事を俺に聞くかなぁ? 話してやりたいけど記憶ないからな」

 シオンが笑いながら言った。

「う――、そうでしたぁ。じゃあぁ――、この間の草原での事覚えてますぅかぁ」


「覚えてる」


「あの不思議な〔ちから〕はなんですぅ?」

 アイナが草原でシオンがフィノメノンソードを振った時の事を聞いてみた。


「俺にもよく解らないけどな。あの現象と〔ちから〕がなんなのかなんて」

 シオンが答え続ける。


「声が聞こえたんだ。あの時の声が」


「あの時の声?」

 アイナが尋ねた。


「ゴーレムとやり合った時に、お前が俺を呼んでくれたそれまで聞いてた声だよ」


「何を話してたんですぅ?」


「前も言ったけど、ほとんど覚えてない〔お前に託す〕て言葉とお前の呼んでくれた声だけだ」

 

 アイナはあの時のキスを思い出し顔を赤らめ余計に眠れなくなった。


「シ、シオンはあの時の事、お、覚えてますぅ?」


「ああ、覚えてる。それが今の俺の全てだ」

 シオンは顔を上げると天井を見詰めて言った。


『キ、キスが全て?』シオンはアイナが好き? 言わないけど好き? 確かめたい。


「ど、どういう事ですぅ? その……つまり――」


「俺には記憶がない。お前とランス、そしてナタアーリアさんに俺は命を助けてもらった。記憶の戻ってない今の俺にはお前達と出会ってからが俺の全てだ。何時かは記憶も戻したいけどな」

 シオンが笑顔で言った。

 

 ちょっと残念な答えのアイナだった。


 アイナはシオンがキスの事をどう思っているのか知りたいが聞くのも恥かしく聞けずにいた。


「へぇ――くしょん! 春はのに今夜は流石に、まだ冷えるな」

 シオンは、ぶるっと身を震わせた。


「早く寝ろ。寒いし俺も眠くなってきた」

 シオンは大きな欠伸をした。


 早く寝れと言われて直ぐに寝付ける訳でもないシオンの事で余計に目は冴える。シオンは寒いから早く部屋に戻りたいのだろうとアイナは思うが、アービィ達もガタガタしているしシオンが部屋に戻れば怖くて眠れない。どうしたものかアイナは暫らく考え言った。


「シオン……寒いですしお布団に入るですぅかぁ?」


「お、おまっ! なに言ってんだよ」

 突然の申し出にシオンが焦った。


「ランスはアイナが怖くて眠れない時、隣で添い寝してくれますぅ」


「お、お前らは姉弟だろ。俺はなんだその、一応男だし……いろいろと問題が」

 内心複雑な気持ちのシオンだった。


「風邪、引きますよぅ」

 シオンもアイナの側にいる事はやぶさかでない。


 アイナをほおって行くのも可哀想だし、このままではなんといっても寒い。


 シオンは仕方なくベッドの端に潜り込んだ。


 布団の中はアイナの体温でほのかに暖められている。


「あったけぇ――」

 思わずそんな言葉がシオンの口から漏れた。




 アイナは寒い中、自分の為に側に居てくれるシオンを不敏に思い言ったが、気が気ではない胸の鼓動が高鳴ってゆくのが分かる。


 その高鳴りを感じてアイナは思う。私、シオンが好きなのかな? 胸がドキドキする。こんな事は初めて……。

 

 シオンが側にいると何時も不思議な気持ちになる。胸が高鳴なり何だか安心する。


 何時も自分を助けてくれるからなのだろうか。分からない不思議な気持ち。




 シオンもなんだか胸が高鳴り鼓動が早くなっていく自分に気付く。思えば何時もアイナが力をくれる。


 意識してなかったが、こいつの事になると不思議と力が湧き上がり自分でも分からない程力が出るんだよなと、ふと思った。


 なんだか分からない緊張感が二人を包むんでいる。やがて暖かい布団の中でシオンは眠りの世界へと櫂を漕ぎ出し寝むりに就いた。





 寝付けずにいるアイナがシオンの方に寝返りを打つ。


「シオン」

 アイナが声を掛けた。


 返事はない。シオンは静かに寝息を立てている。


 シオンは自分の事をどう思ってるんだろう。自分はこんなにドキドキしているのに平然と寝てるし『おばかシオン』と小声で呟いた。




 静かな夜の静寂の中、アービィ達の騒ぐ音は次第に賑やかになりアイナの耳に届いて来る。


 シオンは寝てしまているし急激に怖さが戻ってくる。シオンが隣で寝ているせいか少し安心感はあるが、やはり怖い。

 

 アイナはシオンに寄り添うと頭をシオンの肩に乗せた。


 頬が触れそうになる位の距離。


 やっぱり、いや先程より鼓動は早くなってドキドキする。でもすごく安心感が溢れるこうしてると先程までの怖さが消えていく。

 

 アイナはその安心感に包まれ眠りに落ちていった。




 どれ位寝たのか分からないが、アイナが自分の胸に違和感を感じ目を覚ました。


「うぅ……あっ……ひぃん」

 アイナの小さな唇から吐息が漏れた。

 

 アイナも寝ぼけていて、はっきりしない頭だったが、何かが胸の上で動いているのが分る。


 寝ぼけながらにシオンが隣で眠っていた事を思い出す。


「ち……ちょっと! ひゃん……シオン……もぉ! シオンてばぁ―♡」

 アイナがそう言ったが、シオンは答えない。


 でも、ちょっと位なら我慢してやるですぅ。何がちょっとならなのか分からないのだが、アイナはそう思ったのである。

 

 何度も助けてくれたですしアイナもシオンがちょっと気になってますしでも、ちょ、ちょっと、ちょっとだけですぅよ。などと思いながらアイナは寝た振りをしていた。


 しかし、その動きはアイナの胸を更に強く刺激し大胆になっていく。


「あん……! シ、シオン……ひゃん……もぉ――! ダメですぅ……よ。シオンんん」

 ついには寝巻きの中に忍び込んできた。


「シ、シオン……ダメ……ちょ! やぁん―!」

 アイナの小さな胸の敏感なつぼみを摘まれた時、ハッと眠気は去り我に帰る。


「シオン、なにしてるですぅ! まだアイナの事「好き」て言ってないのですぅよ。こういう事はきちんとプロポーズしてからですぅ!」

 アイナが飛び起き隣で背中を向けて寝ていたシオンを殴り飛ばした。

 

 余りの勢いにシオンがベッドから転げ落ちた。


 いきなり眠りの世界から呼び戻されたシオンが怒鳴た。

「痛ぇ! 何すんだぁ――」


「な、なにって、アイナの乳触りやがったですぅ」

 

 シオンは何の事だか分からない。シオンは眠い目を擦りながら言った。


「なんの冗談だ。これは? いきなり殴りやがって」


「どうもこうもアイナの乳揉みしだいておいて! よくもまあ、そんな事いえるですぅねぇ!」


「はあ? お前なに言ってんだ。してないぞ。そんな事、俺は」

 シオンは覚えのない言い掛りに怒った。


「何度か助けて貰ったしちょっと我慢してやったのですのに! ああゆう事は、はっきりアイナの事をすぅ……」

 言い掛けアイナは頭を傾げた。


 シオンを殴った時、確かシオンは背中を向けていた。


 じゃあ、誰が? アイナが思っているとシオンが覚えのない言い掛りに腹を立て勢いで言った。

「そんな、貧弱な胸触るか」


「なんですとぉ! そりゃシオンの持ってた本の女程ないですけど、アイナもそれなりにありますぅ。それなりに……」

 言いながら自分の胸の膨らみを見て虚しくなりその怒りでシオンを殴り飛ばした。


 すると布団の中からロビーに並んでいた小人像が、ひょろひょろと蠢いて出てくる。

 

 それを見た怖がりのアイナは自分が殴り飛ばしたシオンに飛びつく。

「きゃぁ! でた、でた、でやがったですぅ――シオン助けてぇですぅ」


 半泣きになるアイナを見てシオンは仕方なさそうにアービィの宿る小人像を抓むと部屋から出て行こうとした。


「ど、何処に行くですぅかぁ。シオン」

 アイナは驚きの余り泣いていた。


「どこって、これ放り出したら部屋に帰って寝る」

 シオンが抓んでいるアービィを指差した。


「うっうぅ……ダメですぅ。ここに……いでぐださいですぅ……うっ、うっ」

 泣くアイナを見てシオンはアービィを部屋から放り出すとしかたねぇ奴だなと思いながらアイナの側に戻った。


「ありがとですぅ」


「ああ、いいよ」

 シオンが機嫌悪そうに言った。

「居てやるから早く寝ろ」


 アイナは、こくりと頷き布団に潜り込んだ。


 シオンは床に寒さに蹲る様に座り込んだ。


「風邪引きますぅよ。シオンも早く布団に入るですぅ」


「また疑われて殴られるのは、ごめんだ」

シオンが言うとアイナはしおらしく謝罪の言葉を延べた。

「ごめんなさいですぅ」


 えらく素直だなと思いながらシオンは布団に入った。

 

 暫らくするとシオンは眠りに落ちる。


 アイナは、シオンが寝息を立て始めるのを確認するとシオンの肩に頭を乗せた。やっぱりなんだか安心する。


「さっきは殴ってごめんですぅ」

 小声で呟きシオンの頬にキスをした。


「でも、アイナのちちを馬鹿にした事はゆるさんですぅけど、ふん!」

 寝ているシオンにぺロッと舌を出した。


 シオンは寝た振りをしていた。


 アイナが眠ったらそっと自分の部屋に戻るつもりだった。


 そうしていたらアイナが頬にキスしてきた。


 シオンの心臓は破裂しそうな程に鼓動を打っていた。

 

 アイナがすやすやと穏やかな寝息を立て始める。

 

 底抜けに明るく底なしに怖がりでやさしい心の持ち主。

 

 そんなアイナの寝顔は無邪気でかわいい。


 なんだか衝動的に抱きしめたくなる気持ちを抑えてシオンはそっと部屋を後にした。

 

 何時の間にかロビーに繋がる廊下も今はアービィ達も眠りに就いたのか静まり返っていた。


 アイナがキスした方の頬に手を当てシオンは思う。あの時は、つい頭に来て胸をバカにする様な事を言ってしまったが、起きたら謝っておこう。


 春の朝は肌寒くどこまでも静寂が広がっていた。


 †人形使いとゴーレムナイト† 春風と小悪魔 End

最後まで読んで下さいまして誠にありがとうございました。<(_ _)>


〜 春風と小悪魔 〜 終幕


次回より〜 漆黒の守護者 〜 全十六話がはじまります。


次回をお楽しみに!

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