〜 春風と小悪魔 〜 第一話
†人形使いとゴーレムナイト† 〜 伝説の胎動 〜
完結。
第二弾 全六話
†GATE1 新たなる旅路
そよそよと頬を撫でる春風に乗り野原を彩った花の甘い香りが漂い一面の空気を染めている。
フェリナスの街に三人と一匹? シオンの肩には三十セール程の女の子? が腰を下している。
フェリナスの街はログの村から、南に馬車で半日程の所にある、ラナ・ラウル王国でも有数の商工の発展した街でラナ・ラウル王国は南端に大きな港も持っている。
今から三人はアイナとランスの雇い主であるクラウス公爵の下に向うのだが、やはり落ち着かない様子だ。
「アイナ、どうするの?」
ランスがアイナに耳打った。
「ランス、こそ、どうするのですぅ」
アイナは困った顔をしてランスの顔を見た。
シオンに一緒に来いと言ったもののよくよく考えてみれば、由緒ある大貴族の公爵に一介の使用人が口を出せる身分ではないのだ。
クラウス公爵は政腕に優れ以前、若くして旧カストロス王国の大使を務めた程の人物でもある。公爵はカリュドスのカストロス進軍の前にラナ・ラウル王国の内政に戻った。
カストロス陥落後の数年後にカストロスの陥落で落ち延びたナタアーリア一家と偶然、フェリナスの街で再会し一時、保護していたのだが母の本当の生れについてアイナとランスはその事を知らない。
公爵はナタアーリアに、このまま領地に住むよう進めたが、ナタアーリアは公爵に何らかの害が及ぶ事を嫌い。当時、住み始めたログの村でひっそりと暮らす事を選んだ。
せめてもと父を亡くしたばかりの二人の子供を奉公に出すと言う形で話は進み二人を保護しているのである。
シオンの事をどう切り出すか悩み込む二人の耳に、街の商人達の噂話が飛び込んでくた。
「最近、亜人だの妖魔だの増えたねぇ」
「まったくだ。ここは、まだ治安がいい方だが、この辺りにも増えたな」
「先日、船も海獣に沈められたし内陸じゃオークだの夜はトロールに襲われるなんて話だ」
「馬鹿いえ、アンデットやバンパイアやキメイラなんかの異形の魔物も出やがるて聞くぜ」
「領主様達は何してんだか」
「今は、平時だが候軍は万一に備えて軍を裂けないんだよ」
「それで傭兵集めて新たに傭兵ギルドお起てるみてぇだぜ」
「ちげぇよ。守護者ギルドって言うらしいぞ」
傭兵は戦争があれば軍に借り出されるが、平時はあぶれ盗賊や海賊に身を窶す者が多い。
戦での功多き者は候軍や王軍になる事もあるが稀であった。
二人にの耳にそんな会話が聞こえたが、今はそれどころではない。シオンをどうしたもんかで頭はいっぱいである。
「ダメでもともと、とにかく公爵様にたのんでみよう」
ランスがアイナに耳打った。
取りあえず三人はクラウス公爵の元に向いクラウス公爵の滞在している宿で主の帰りを待つ事にした。
例の鬼妖精人目につく為、人目に触れぬ様ズタ袋の中に入れておく事にする。文句を言いながら鬼要請はしぶしぶ袋の中に入った。
仮にも得体の知れない妖精を街中で連れて歩くなんて出来ない。
王宮のある王都の近衛兵の中には野生の聖獣や魔獣を手名づけ馬の代わりに使う隊もある。
グリフォン、ペガサス、ヒポグリフ、マンティコア、ユニコン等であるが、その中でも“現在種”の強力なブレスを吐く竜は賢く気難しい為、希少な竜を扱う兵は少く多くの竜騎士の多くは特殊な魔法で生み出す魔法生物、亜竜を使っている者が殆どだ。
公爵の帰りを待つアイナとランスは気が気じゃない。
仕事で疲れているであろう主になんと声を掛けシオンの事を切り出せば良いのか、頭から煙が出そうな勢いであった。
二人がああだこうだと悩んでいると宿に戻ったクラウス公爵がアイナとランスに気付き声を掛けた。
「二人共、戻ったのかね。母上殿は元気で居られたかな?」
「は、はい」
二人は緊張の面持ちで返事を返した。
「そうか、それはよかった。ゆっくりできたかね」
クラウスは微笑を浮かべた。
「ときに、その少年は?」
公爵が二人と共に居るシオンに気付き尋ねた。
「はい、この少年は友人のシオンと申します。この者が公爵様の所で働きたいと言いますのでお伺いをたてに参りました」
ランスが緊張しながら答えた。
暫し公爵が難しい顔をしていたが、シオンを観察する様にを見て言った。
「見たところ外国の御人の様だがこの国とも西の国とも違う顔立ちだが、お国は何処かね?」
シオンは無論、記憶が無いので答えようも無い困った表情で言った。
「そ、それは……」
困っているシオンを見兼ねたランスが変わりに答えた。
「その者は、私共が公爵様にお使えする前よりのログの友人で、孤児です」
咄嗟に答えたランスの後を引き取りアイナも言葉を発した。
「シオンには記憶がないのですぅ。生まれた国も覚えてないのですぅ」
暫らく公爵は難しい顔をして考えてから答えた。
「すまんが、雇う訳にはいかん」
「な、なぜですぅ」
アイナが主である公爵に食い下がった。
「お前達は、良く働いてくれる。他ならぬお前達の望みを叶えたいが素性の分からん者を雇う訳にはいかんのだ。私は仮にも公爵家の者、こんな事は言いたくないのだがね。他の従者達の手前もある。分かっては貰えんかね?」
ナタアーリアの事もあり、公爵も二人にはある程度の優遇を取っていた。
この旅の帰郷もその為だった。
二人は良く働くのでこの度の特別な計らいに他の者からの不満の声は上がらなかったが、行き過ぎた行為はこれからの二人の仇になり兼ねない。
アイナが更に食い下がろうとした時、シオンが止めた。
「シオン?」
「いいんだ。お前らには十分世話になったから、これ以上迷惑かけれねぇよ」
シオンが微笑んで言った。
「シオンでも……でも」
アイナの顔が悲しげな顔をした。
「いいから」
シオン達を見てクラウス公爵が口を開いた。
「お前達は明日の朝まで休みなのだから、今夜はその少年も一緒にこの宿に泊まるといい」
公爵のせめてもの温情だった。
「お父様、お帰りになられていたのですか?」
宿の奥から金髪の髪の少女がクライスに話し掛けた。
「おお、ティアナか明日にはここを発つが王都の学園の入学手続きの準備は済んだのかね?」
ティアナは王都にある高等学院に入学する為、フェリナスに公務に来た父と道中を共に来ていた。
「はい、済ませておりますわ」
と答えアイナの傍に来て耳元で囁いた。
「ちょっと、アイナあの子誰よ?」
「シオンの事ですぅかぁ?」
公爵が部屋に向うのを確認してティアナがアイナに笑みを向けた。
「かっこよくて素敵ね。あの人アイナの恋人?」
ティアナが小声で尋ねる。
「ち、違いますぅ」
アイナは顔を赤らめた。
「じゃあ、私が……」
ティアナが何か言うとしたが、アイナが焦の混じる声で言った。
「ダ、ダメですうぅ」
「何でダメなのよ。やっぱり恋人なの?」
「ち、違いますけど、ダメなものはダメですぅ。ほら、仮にもティアナは大貴族の御令嬢ですぅよ」
「仮にもとはなによ。仮にもとは」
「身分が違い過ぎますぅ」
恋人じゃないけど……キスしたもんとアイナは思った。
「お嬢様、お食事の用意が整いました」
ティアナに従者の一人が声を掛けた。
「今、行きます」
と答え言葉を続けアイナに言った。
「後で、話なさいよ」
にやけた笑みを浮かべて言い残しティアナはその場を後にした。
三人は宿の下にある飲み屋を兼ねる食堂で食事を摂る事にした。
「どうするかな」
ランスがポツリと呟いた。
「まあ、なんとかなるさ」
シオンが答えた。
「ログに戻る? 母様も言ってたし駄目だった時は来なさいって」
話の中に鬼妖精がテーブルの下から口を挟んだ。
街の者達が言ってたじゃまい。傭兵ギルドが出来るって」
「傭兵ギルド?」
シオンが尋ねた。
「ギルドも知らないの? 組合よ。商人ギルドなんかは前からあるじゃない。傭兵ギルドは聞いた事なおけど。それが正式に国の許可で出来るでしょ?」
「シオンが傭兵になんてアイナは反対ですぅ。戦争は嫌いですぅ」
「小娘が戦う訳じゃないし戦争とは限らないよぉ」
「俺も人がたくさん死ぬ事になる戦争なんてごめんだぜ。お前の友の願いとやらはどうすんだ」
「人間ども、よく考てみなよぉ。噂じゃ魔物に加え何だかヘンな魔物の動きが活発になってるみたいだって。ヘンな魔物は兎も角、長い歴史の中には何度かある事だよ。たぶん、それらに対抗する為のギルドだよ」
「妖精もどきのお前が言うか、それに魔物だっても生きてるんだろ」
「確かに、友の言う争いになるかも知れないけど……だって“生きる”“護る”戦いもあるよぉ」
「友の願いをお兄ちゃんが全て叶え、想いを背負う事はないの……お兄ちゃんは自分の絶ちたいものを絶てばいいのよ。それが何れ友の願いの“ひとつ”でも絶つ事になるなら私はそれでいいの。だから、私は友とお兄ちゃんの傍には私が居る」
淡々とした口調で鬼妖精が言った。
「その傭兵になったとしても俺は魔物の事を良く知らないぜ?」
「な――に、だから私がお兄ちゃんの傍にいるんだよぉ」
何処となく嬉しそうに鬼妖精が微笑んだ。
「シオンを危ない目に合わすのですぅかぁ」
アイナが怒りを含んだ目を鬼妖精に向けた。
「だからぁ 私がお兄ちゃんの傍にいるんだぉ!」
「お前なんぞ、チビのくせに生意気言うなですぅ」
アイナが小馬鹿た様に鬼妖精に言葉を放った。
「チビチビ馬鹿にするなぁ――。姿を元に戻せば済む事だもん。まあ、心臓半分になったから今はあの時の三分の一位にしかなれないけど……三年も経てば回復するもん。それにゴーレムだってあんたなんかより凄いの作れるもん」
その話を聞いてアイナがなにやら閃いた。
「大きさは、自由に変えられるのですかぁ。チビ」
「まあ、今の限界まではね」
「しゃ――ねぇえなぁ、ティアナに相談するですぅ」
「お嬢様に? 言っても同じじゃない?」
ランスが呆れて言った。
「アイナはティアナと仲良しですからぁ大丈夫ですよぅ。たぶん!」
怖がりで人見知りだが、気を許す者には身分の違いに関わらず接する。
そんなアイナの屈託の無さは周りをほのぼのさせ和ませる。
ある意味で怖いもの知らずで天然の成せる技だ。
「そうと決まれば行くですよぅ」
アイナが意気揚々と声を上げた。
「はぁ、やっぱりそうなるんだよね。いつも」
ランスは切なげに呟いた。
シオンは二人に任せるしかないのでだまっていたが、内心大丈夫かこいつらログに居た方が良かったなぁと、ちょっぴり後悔した。
To Be Continued
最後までお読み下さいまして誠にありがとうございました。<(_ _)>
次回をお楽しみに!