第2話 幼馴染は世界を救う勇者として
俺がこの村に来てからちょうど10年位経つ。俺の住んでいるこの村は小規模で、村人の総数は20程度の多種族で構成されている。子供も俺とアルカナの2人しかいなく、民家も6,7建位で少なく本当に代わり映えのしない村だ。
そんな村で俺は今も近くの草原で空を見て過ごす怠惰な生活をしている。本来ならばこんな人の少ない村では10歳にもなる子供は十分働き手になり、俺も働かされると思っていたが違った。5年前から幼馴染に魔力の使い方を教えて魔法が使える様になったことことがバレた事が原因だ。
本来魔法は先天的か、熟練の者に教えて貰ってやっと覚えるものなのだ。それを5歳児が教えたとなれば当然天才扱い。詳しい事は省くが、かくして俺は幼馴染の教育の代わりに働きは免除されたのだ。
「あー、ユート君また寝てる」
「寝てないよ」
目を開けて上を見ると見慣れた黒髪の黒狼族と呼ばれる少女、アルカナが立っていた。
「それより早く今日も! 」
「お前はいつまで経っても変わらないな。そんじゃさっさと始めますか」
俺は今日もこいつに魔法を教える。今やこいつは10歳にして魔力量は5000に届き、魔力操作のランクはAとなっている。正直もう教えるより自分でやって欲しくもあるが、いくら天才で賢くとも所詮は10歳の女の子というわけか。
「いいか、お前の魔力量と操作は既に世界的に見てもトップクラス。後は何が足らないと思う? 」
「えーと、経験?」
「そうだ、よく分かったな」
そう言って頭を撫でると、こいつは俯いてはち切れんばかりに尻尾を振ってくる。最初にやった時はやらかしたと思ったけど、撫でるのを止めると尻尾は力なく垂れて、目は名残惜しそうにしてこちらを見てくる。それからは褒める時はいつもこうしている。
そう言えば魔力の増強と操作向上の仕方だが、単純に魔力を早く効率的に消費しまくる事をさせている。魔力は回復する度に少しずつ増え、効率化を模索する過程で魔力の動かし方を理解する一石二鳥の方法だ。
「そんじゃ今日からは経験を積むために実戦をします。」
「えっ? ユート君と戦うの? そんなの勝てるわけないよ」
まるで何言ってんのこいつみたいな顔でいってきやがった。
「は? なんでそう思うんだ? 」
「だって私より魔力も多いし扱いも上手い。それに普通に強い」
「なんだよ普通に強いって。だいたい俺は1つもスキルを持っていないんだぞ」
アルカナは勘違いをしている。確かに俺は転生者でこいつよりも経験をしているから負けることはない。しかしこの世界はスキルが全てを決定づけると言ってもいい程に前の世界よりもスキルの恩恵が大きい。
どれ位かと言うと、剣術スキルを持たない者とスキル<剣術Lv1>を持つ初心者同士が戦えばまず後者が圧勝する。例えスキルを持たないものが剣の才能を持って限界まで登り詰めようとも、スキル<剣術Lv4>さえあれば純粋な剣術を勝負では持たぬ者には勝てない。それ程にこの世界のスキルのチカラは偉大なのだ。
「お前だって知ってるだろ、スキルを持たざる者と持つ者の違いを」
「知ってるけど……やっぱり本当はスキルを持ってるんじゃないの? 」
まあ疑うのは仕方がないだろう、そもそも普通はスキルを持たない事など有り得ないのだ。普通は産まれた時に1つから3つ、それに加えて極稀に[固有持ち]が生まれる。そんな世界に「私はスキルを持っていません」って言っても信じて貰えないだろう。それに言うやつもいないだろう。
「だけど私の剣術のスキルはLv3なのに1度も勝つどころか遊ばれてるし、それに魔法だってスキルがなくちゃ発動すら困難な筈なのに私はユート君の足元にも及ばない」
「だから言ったろ、経験が足りないって。今までは型なんかは教えたけど足運びなんかの剣の振り方以外の剣術を教えていない、魔法もそうだ。だから実戦をしながらそれを養っていくんだよ」
俺は空間魔法の応用の【亜空庫】にしまっていた木剣を2振りを取り出して片方を渡すとお互いにある程度距離をとり剣を構えた。
「いくよ、はぁぁぁ!! 」
「あっ、1回でも攻撃が当たらなかったら耳をモフモフするからな〜」
そんな感じで日が暮れるまで剣を打ち合った。結局、俺には1撃も当てる事が出来なかった。
日が暮れ始める中、俺は草の上で過呼吸気味で大の字で倒れているアルカナを見下ろしていた。しかし息が荒いのは別に疲れたわけでわ無く、俺のモフモフのせいだったりする。
「なんで勝てないのよ、はぁ、はぁ、1回も当たらないし」
「やっぱり何度も言うけど経験だね。フェイントとか見え見えだし得意な振り方ばかりするから動きは分かりやすい。正直まだまだだね」
「それでも勝てる気がしないよ」
弱音を吐くのでモフモフして黙らせ、俺は動かなくなったアルカナを背負って村へと戻った。
村の中に入ると何やら騒がしい様子で何かを囲んでいるようで、村人達の間からその中をよく見ると見慣れない集団がいた。豪華な鎧を着た男であろう人が3人、ローブを来た中年のオッサンが1人いる。
「村の皆さん、私共は王都から派遣されて[勇者]の固有を持つ者を探しております。10年程前に[勇者]の固有を持つ者がこの世界に誕生したとお告げがありました。この村には10になる者はおられますか?」
皆がざわめく中、村長の爺さんが代表して前にでてきた。名前は忘れた。
「この村には2人の子がおります。ちょうど後ろにおりますので直ぐにお呼び致します。ユート! アルカナ! 前に出なさい」
爺さんの響く声に従い俺とアルカナは爺さんの隣に並ぶと、オッサンは俺達を値踏みするように見てきた。
「それでは今から鑑定を始めます。先にそっちの男の子、この紙に触れください。これは固有スキルを示す鑑定紙です」
そう言って差し出された紙は一般に普及している紙より上質に感じるのにどこか荒々しさを感じる。俺はそれに手に触れると僅かに魔力を吸われた感覚がしたが、紙に反応はなかった。
そのまま次にアルカナが触れると、微かに発光して[勇者]と[天才]の2つの単語が書かれていた。
「おぉ、貴方様が勇者様ですか。是非とも我々人類をお守りください」
「え、勇者ですか? 私が。よく分からないんですけど」
アルカナはかなり戸惑っているのかチラチラと俺の事を見てきやがる。
「簡単に勇者の役割を説明致しますと、一定の周期で魔王と呼ばれる悪の権化の様な魔物が生まれます。それと同時に世界のバランス調整の為に勇者が生まれるのです。ですから、是非とも魔王討伐をお願いしたいのです」
そう言ってアルカナに頭をさげたが、それにしてもバランス調整とは少々いただけないな。
「そんなこと急に言われても……」
「いいじゃんか、行ってこれば? 」
「えっ? どうしてそう思うの? 私と離れ離れになりたいってことなの? 」
悩んでいるアルカナにアドバイスしたつもりが逆効果。耳と尻尾は垂れ、目にも涙を浮かべていた。て言うかそんなに俺と離れたくないのかよ。
「違う違う。いいかアルカナ、この村の決まりは覚えているか? 」
「うん。成人したら1度村を出て外の世界を見てくる事でしょ」
「そう。だから遅かれ俺達は1度村を出るなら早くても安全なら行くべきだろ。それに後から俺も追い付くから先に待っていてくれよ。それじゃあな」
説明になっていない説明をしながらまだ悲しそうにするアルカナの頭を強めに撫でて俺はこの場を去った。手を離した時にアルカナは何か言いたそうにしたいたけど結局何も言ってはこなかった。
その後、アルカナは勇者になる事を選び王都に向かった。別れの言葉も無く。