97回 他に何かないかと考えてはみるが、妙案は思い浮かばず
「あー」
足りないもの、必要なもの、やりたい事で、出来る事などなど。
それらを書き出した紙を眺めていたタカヒロは、声を上げて寝転ぶ。
「駄目だ、全然駄目だ」
人手と金と手間と時間。
様々な事を考えると、何も手がつけられないのがよく分かる。
今の状況では今以上の事など絶対に出来ない。
分かってはいるのだが、打開策がないかを考えてしまう。
「けどなあ」
どうにか出来るなら悩みはしない。
今の段階でこれだけしか出来ないというなら、ここが限界なのだ。
これ以上はどこからもひねり出せない。
手詰まりと言っても良かった。
「そんなにうならないで」
見かねたのか、ミオが声をかけてくる。
「どうにかなるよ、きっと」
「だといいけど」
それが出来ないから悩んでいるのだ。
「とにかく人が足りねえ。
どうにかして引っ張りこめればいいけど」
これが比較的安全な地域ならそれほど問題は無い。
だが、危険地帯なのが問題だった。
どれ程高い報酬を用意しても、応じる者がどれだけいるか。
そもそもとして、金を用意出来るかどうかもあやしい。
モンスターを倒して得られる金は結構なもので、収入そのものはそれほど問題は無い。
生活をしていくなら苦労はそれほどないだろう。
だが、設備投資として考えるとそうでもなくなる。
あくまで生活費としては多いというだけである。
事業費用や運営費として考えるとそれほど余裕があるわけではなかった。
「やっぱり、奴隷なのかねえ……」
あまり考えたくもない手段であるが、それが現実味をおびてくる。
他の者達も購入意欲に燃えており、導入はそれほど難しくはないだろう。
(ただなあ……)
前世の記憶、日本において自然と身についた人道的な考えがそれを否定する。
だが、背に腹をかえることが出来ない現実は、実効性のない道徳など吹き飛ばす。
また、タカヒロも奴隷の購入を禁止する事は出来ない。
ミオを既に購入してるから、というのもある。
それ以上に、各自の行動を束縛するような理由がないからだ。
この世界、奴隷売買が認められている。
そんな世界で購入を禁止するのは、余程の権限がなければ無理である。
いくら集団の統率者とはいえ、タカヒロにはそこまでの権限はなかった。
(それに、人手は確実に増えるし)
それを考えると、道義的にどうなのかという考えを引っ込めてしまいたくなる。
それほど人手不足は深刻だった。
(せめて、奴隷でもまともに扱ってくれれば)
身分や立場はともかく、人間としての扱いは絶対に守ること。
タカヒロとしてはそこだけは譲るつもりはなかった。
強制してでも守らせようと思っていた。
(まずは俺からか)
「なあ、ミオ」
「なに?」
仕事が終わったミオに尋ねていく。
「お前さ、奴隷になってどうだった?」
「え?」
「なんつうか、それでいいと思ってるわけはないだろうけど。
やっぱり、この状態から抜け出たいとか思うわけ?」
「そうでも……ないかな」
「え?」
意外な返答が出てきた。
「これがいいとは思わないけど、悪くはないんじゃないかな」