95回 この状態なので人がとにかく欲しいという事情がある
出来るだけ避けたい奴隷購入。
だが、仲間の中ではこれが真剣に考えられていた。
タカヒロとトシノリが連れてきた奴隷のおかげで生活面の作業を任せる事が出来てるからだ。
能力や技術などは個人差があるが、それでも働き手が増えるのは確実になる。
実際に効果を目の前にして、今まで以上に購入の意欲が高まっていた。
「だから、モンスターを大量に倒してきますぜ」
そう言って集団にいる義勇兵達は勇んで屋外に出向いていく。
動機の不純さには考えるものがあるが、やる気がある事だけはありがたい。
危険な作業になるので、本人の意志や意欲がなければどうしようもない。
それを持ってるのは、素直にありがたい事ではあった。
「奴隷を手に入れられるまでは……」
「身の回りの世話をさせるんだ……」
「ついでにあれの世話もさせるんだ……」
「むしろあれの世話のために……」
「大将のように無駄な我慢はしねえ……」
「手に入れたらその場でやりたい事を……」
そんな執念がモンスターに向かっていく。
白刃と戦闘技術にこめられて。
「どうにかならんのかな、あの考えは」
出発する仲間の背中を見送りながら、タカヒロはそんな事を考える。
意欲に燃えるのは良いのだが、問題を感じずにはいられなかった。
「まあ、先の事を考えると必要になるからのお」
タカヒロと共に村に残ったトシノリが語りかけてくる。
「人手もそうだけど、人生の相手も必要だからのお。
この先、ここで暮らしていくならな」
「そりゃまあ、それは必要だろうけど」
働き手というだけではなく、どうしても必要になる部分ではある。
子孫繁栄を求めるなら、相手が絶対に必要不可欠だ。
「それを奴隷として求めるのもねえ」
「そうでもしなけりゃ相手なんぞおらん義勇兵だ。
見逃してやってやれ」
「もちろん、やめろとは言わないよ」
タカヒロもそこは嫌と言う程理解している。
とにかく異性との出会いのない仕事なのだ。
突破口があるならそちらに向かっていくのも当然である。
「ただ、それだけじゃなくて、田畑の方を手入れする人もね」
「やっぱりやるのか?」
「ああ。
それなりの広さがあるんだ。
放置しておくなんてもったいない」
自給自足体勢を作るためにも、田畑を元に戻したかった。
「その為の人も集めたいんだ」
「となると、小作人になるのかのお」
「そうなるのかな。
でも、来てくれる人がいるかどうか」
「そこも奴隷で手配するしかないんじゃないのか?」
「最悪の場合、そうするんだろうな」
出来れば希望者を募ってつれてきたいが、それも難しいだろう。
「やっぱり奴隷を買ってくるしかないのかな」
「こんな所までやってきて、なおかつ逃げ出さずに仕事をきっちりこなすとなるとのお。
それ以外に上手い手段が思いつかん」
単なる労働力というだけではない。
こなすべき仕事を最後までやり通す者が必要になる。
無駄を省くのは良いが、手を抜くようなでは困るのだ。
その点、魔術によって拘束される奴隷は一定の勤労さを期待出来た。
「その前に、畑を守る備えを作らねばならんがな」
「そっちの方が大仕事だよな」
それこそ人手が欲しくて仕方のない作業である。
本当に色々と足りないものばかりであった。




