92回 実際に減っていく負担を考えれば、あれこれ言われ事などどうでもよくなる
「結局、怒り狂っちまったな」
「そりゃまあ、サキさんだし」
帰りの馬車の中でタカヒロとミオは、町で最も印象に残った出来事を思い出していた。
「サキさん、こういうのは絶対許さないから」
「それは分かってるけどさ」
そういう考えや性格だというのはタカヒロも分かってる。
分かってるだけにどうにもならないのも理解していた。
「接点が減ったのは救いだな」
顔をあまり合わさなくなったから面倒に巻き込まれる事は減っている。
それが今はありがたかった。
「まあ、嬢ちゃんの負担はこれで減るはずだから、もう少し待っててくれ」
同じ馬車に乗ってるトシノリがそう言ってくる。
サキが激怒した原因がそこにあるのだが、人手が増えるのは素直にありがたくもある。
なので言い返す事も出来ず、かといって素直に喜ぶわけにもいかず。
どちらにもつけない感情を抱えて、タカヒロは返答に窮してしまう。
ミオはもう少し素直に、余計な事を考えずに、
「助かります」
と喜んでいるのだが。
「でも、酷い事はしちゃいけませんよ」
と釘を刺しながら。
同じ奴隷ということで色々と思う所もあるのだろう。
面と向かって否定はしないが、そういった言葉が多少なりとも牽制にはなっている。
これを意図してやってるのか、無意識にやってるのかは分からないが、なかなかに強かである。
(まあ、女だしな……)
嘘と涙を武器にする生き物である、この強かさも持って生まれたものなのだろうとタカヒロは思っていた。
言われたトシノリの方は、そういった事を考えてるのかどうか分からないが、
「分かってる分かってる」
と軽い口調と態度で受け止めていた。
「身の回りの世話をしてもらうんだ、無茶や無理はさせられんよ」
一応殊勝な事を言ってその場をおさめていく。
その言葉が、その場しのぎである可能性を考え、タカヒロは何とも言えない気持ちになる。
年の功なのだろう、適当にはぐらかしたりする術をトシノリは身につけてる。
ミオへの言葉がそうであるかもしれない、むしろそうであるのだろうと思って、呆れるしかなかった。
(ロクデナシが多いよな、意外と)
自分の周りにいる人間を見渡して、そんな事を考えてしまう。
そんな人間を束ねてるタカヒロも、たいがいであるのだが本人に自覚はない。
村に戻り、いつもの生活に入っていく。
タカヒロは集団の運営をしつつ村の状態を少しずつ改善していく。
村の近隣で稼げる量を把握し、だいたいの収益を予想していく。
それをもとに、必要な物資や機器の購入などを考えていく。
すぐに何かが出来るわけではないが、道筋だけは見通しておきたかった。
生きていくのに問題はないくらいの稼ぎがあるので、それほど大きな心配は無い。
だが、収支計算をしてると嫌でも分かってくる。
まだまだ先が長いという事が。
今のタカヒロ達の規模と稼ぎでは、求める水準に到達するのも難しい。
粘り強い活動を今後も継続していかねばならない。
それでも、自分達の居場所を作るために、ここを乗り越えねばならなかった。




