90回 実用性第一なあたり、仕事のなんたるかを心得てはいる
「でも、いいの?
これ買ってもらっちゃって」
「かまわねえって。
これくらいの余裕はある」
買い物を済ませた二人はそんな事を言いながら串焼きを口にしていく。
「そういうのも欲しいんだろ。
だったら遠慮するな」
「でも、絶対に必要ってわけじゃないんだし」
「あれば便利でもあるんだろ。
だったらいいさ。
持ってて困るってわけでもなし」
今回買った物は身だしなみを調える物がほとんどである。
無くても困らないというか、絶対に必要なものというわけではない。
だが、櫛などは女として欲しい物だろうし、そういったものを買うなという程タカヒロは狭量にはなれなかった。
さして高い買い物でもないのだから、というのも大きい。
「ま、これくらいなら構わないから気にするな」
「うん」
頷いたミオは買ってもらった小道具を入れた包みを抱きしめた。
「あと、服とかもどうなんだ?
足りないなら遠慮無く言え」
「そっちは大丈夫だよ。
むしろ多いくらい」
「ならいいけど。
でも、作業着とかじゃなく、普段着とか必要なら言えよ。
何ならかわいいものとかも買っていいから」
「どこで着るの、そんなの」
「それもそうかもしれないけどさ」
町から離れた辺鄙な場所では、確かに着る機会は無いかもしれない。
「それでも、あれば何かの時に役立つかもしれないだろ」
そもそもとして、必要かどうかというより、欲しいかどうかというのが大事である。
働き詰めのミオなのだから、そういった願いがあるなら叶えてやりたかった。
それくらいの贅沢は充分にする権利がある。
「どうなんだ?
欲しい物とかないのか?」
「うーん。
あるにはあるけど」
「なにが欲しい?」
「それって脱水機とかなんだよね。
あると凄く便利だから」
とてつもなく実用的な話である。
色気も何もあったもんではない。
生活感丸出しだ。
「そっちか……」
「うん、みんなの分を洗ってるとね。
やっぱり手が回らなくなっていっちゃって」
そうなると、確かに必要ではあるのだろう。
ミオの負担が軽減出来るならば、それも考えねばなるまい。
「…………お洒落とかする以前の問題か」
娯楽をするよりも、まずは仕事の手間を減らしたいというところだろう。
至極ごもっともな話で、それは早急にどうにかしたいところだった。
ただ、魔術装置は高いので簡単にはいかない。
「なるべく早く手に入れるよう努力するよ」
「無茶言ってごめんね」
ミオが申し訳なさそうに困ったような顔をして笑う。
それを見て、タカヒロもつられて笑った。
そんな事を話ながら二人は周旋屋の宿舎へと戻っていった。
宿泊はそこで済ませて、翌日出発予定である。
他の者達も買い付けを終えて戻ってきており、タカヒロに報告をしていく。
領収書などを見て確認をしていく。
必要なものは確かに手に入れたようで安心する。
ただ、すぐに手に入らないものもあったようで、それは残念ではあった。
もちろん在庫の有無や値段の高さなども問題なので、買い付けに行った者をせめるわけではない。
「ごくろうさん」
労いの言葉をかけて、結果を受け取っていく。
「無いものはどうしましょう?」
「時間がかかるなら、注文だけして今度町に来た時に受け取ろう。
どうしても手に入らないなら諦めるしかない」
他にどうしようもないので、そのように動いていくしかない。
「ま、時間もあるしちょっと行ってくる」
そういってタカヒロは外に出た。
取り寄せなどの注文はタカヒロでないと決められない事も多い。
なので直接店に出向いて話をする必要があった。
時間も金もかかる事なので、相応の責任者でないと売る方も踏ん切りがつかない。
そのため、タカヒロ自ら出向かねばならなかった。




