9回 今後の身の振らせ方について考える 4
「まあ、そういう事なら構わねえけどよ」
「じゃあ、登録頼むよ」
「けど、せっかく貯めた金を、こんな事で使うか?」
じろっ、とミオを見つめてオッサンはそんな事を言う。
対してタカヒロは、
「しょうがないさ。
金はまた貯めるよ」
「はっ…………どうしようもねえな」
呆れたのかオッサンはそれ以上何も言わない。
ただ、事務的にミオの登録作業を進めていく。
名前や出身地、年齢などを聞いて、それを書類に書いていく。
それから、周旋屋の登録の証として登録証というカードを渡してくる。
「ほらよ。
お前の身分証明だから大事にしろ」
現代日本における運転免許に近いものがある。
正式な身分証明ではないが、一応身元を示すものとして使える。
「それと、精神力を使うが、能力を表示する事も出来る。
使い方はそいつに聞け」
そう言うとオッサンは書類を持って受付の後ろへと向かっていく。
登録作業をするのだろう。
ミオはあらためてタカヒロと向かい合い、手にした登録証を両手で持つ。
「あの、これって」
詳しい説明を求めてるのだろう。
言わんとしてる事を理解してタカヒロは自分の登録証を取り出す。
「まあ、俺達がここに登録してるってのを示すもんだ。
で、それだけじゃなくてな……」
言いながら登録証を掌の上に置く。
それから暫くすると、登録証の上に立体映像のように文字と数字が表示された。
「こうして俺達の今の能力を表示したりもする。
この仕事、誰がどんな能力を持ってるかはっきりさせなくちゃならないから、こういう道具が渡されてる。
お前のも同じ事が出来るから、掌の上に置いてみろ」
「うん……」
言われておっかなびっくりとやってみる。
確かに掌の上においた登録証は、文字や数字を表示した。
「文字は読める……よな?」
「簡単なものなら」
いわゆる平仮名や片仮名にあたるものならば読めるという意味である。
この世界、最低限それくらいの事は教わるのが普通なので、識字率はそれほど低くはない。
ただ、よほど余裕がなければ平仮名・片仮名程度の文字と数字をならっておしまいではある。
(そういや……この世界って言葉は日本語で、文字は平仮名・片仮名に漢字なんだよな)
なんでそうなってるのか不思議であるが、おかげで言葉と文字で困る事がないので助かっていた。
表示されてるミオの能力は、ほとんどが平仮名や片仮名だった。
少しだけ漢字が混じってるが、本当に一部だけである。
機能として、表示してる者の知ってる範囲の文字が表れるようになってる。
ミオの知識がそのくらいだという事である。
特別勉強が出来なかったから、というわけではない。
現代日本でいうところの小学校一年生から二年生、せいぜい四年生程度までの事しか習わないのが普通だからだ。
計算だけは足し算引き算にかけ算割り算まで習ったりするが、他はおしなべて低水準である。
一般庶民はこの程度の水準でも充分であると考えられてるのが大きい。
とはいえ、読み書きが出来るのは大きい。
今もミオは表示された文字の意味を理解して見つめている。
それが出来るというのはとても大きな優位点である。
書き記したものを読み取って、伝えたいことを理解出来るのだから。
「ま、能力を見るのもほどほどにしておけ」
適度なところで閲覧を止める。
「さっき、オッサンも言ってたけど、これを表示するのに精神力を使う。
表示し続けてると立ってられないくらいの眠気や怠さを感じるようになるぞ」
「え?!」
「まあ、連続して何時間も表示してればだけど。
でも、あんまり連続して表示しない方がいい。
能力を見られると面倒になる事もあるしな」
そう注意して能力表示を止めさせた。
やり方は簡単で、消えろと念じるか、掌の上から登録証をどかせばいい。
「色々やってると表示される数字が変わったりする。
数字が大きくなると、その能力や技術が上がったって事になる。
そうなれば、今までより良い仕事をまわしてもらえるようになるぞ」
詳しい事はこれから説明するつもりだったので、大雑把にこれだけを伝えておいた。
そして、繰り返しになるが、大事な事を伝える。
「あと本当に能力表示は大勢の前でやるな。
それを見て値踏みする奴もいる。
仕事で必要な時とか、他の誰もいないのを確かめてから表示させろ。
でないと、痛い目をみるかもしれないからな」
「うん……分かった」
ミオは素直に頷いた。
何がまずいのかまでは分かってないし説明もされてない。
だが、今は言われた事を素直に受け取ろうとした。
「じゃあ、行こう」
登録証をもらったミオをつれて食堂へと向かっていく。
「これでお前もここに泊まれるようになったから。
暫くは一緒にいるぞ。
あと、仕事も出来るのがあれば入る事が出来る。
それで幾らかでも稼いでこい」
手を引いて奥へと向かいながら説明をしていく。
「ええっと、それって……」
「詳しい事はまた明日にでもしてやるよ。
とにかく今はそういうもんだと思ってろ」
「うん……」
その言葉を信じてミオは頷いた。
そんな二人に、
「あれ?」
と近づいて来る者がいた。