89回 奴隷の主として強権を発動するが、誰にも文句は言わせないし言われないだろう
「それじゃ、こんな所だな」
報告や近況のやりとり、今後の展望とそれに伴って必要になるかもしれない人手や物資。
それらを発注する可能性などを語り終える。
先の話はだいたいここまでで終わり、それからは当面必要な物についての話になった。
周旋屋で調達出来るものを確認し、それらの発注も終わる。
「あとは嬢ちゃんをそこらにつれていってやれ」
「だから、なんでそこに話が飛ぶんだ」
タカヒロのそんな声を無視してオッサンは、
「嬢ちゃん、待たせたな。
こいつに遊びにつれていってもらえ」
とミオに声をかける。
「小物屋で新しい物が出てるようだから、こいつに買わせてやれ」
「はーい」
間にいるタカヒロを無視して、オッサンとミオは短くも楽しげに言葉を交わしていた。
「いいけどさ、べつに」
言われてシャクではあったが、だからといって拒否するつもりもない。
やることももう無いので、ミオを連れて町の中に出ていく。
仕事をさせっぱなしだったので、その気晴らしも兼ねてだ。
無理のない範囲で何か買ってやっても良いとも思っていた。
「じゃあ、小物屋でもいってみるか」
「うん」
わざわざオッサンが言ってたので、そちらを見てみる事にした。
「へえ」
言われて来てみた小物屋には確かに新たな商品が並んでいた。
髪留めや櫛、小物入れといった道具が並んでるのはいつも通り。
だが、その種類が増えていた。
「どうだ、何か欲しい物とかあるか?」
ミオに尋ねてみるが、本人は小物に気が向いておりタカヒロの声も届いていない。
邪魔するのも無粋なので、しばらくそのまま放っておく事にした。
気になるものを見定めるためにも、まずはミオの好きなようにさせておいた方が良いだろうと思って。
それから暫く小物を眺めていたミオだが、顔をあげると、
「おまたせ」
と言って商品に背を向けた。
「どうだ、気になるものとかあったか?」
「うーん、特には」
そういってミオはやんわりと否定してみせた。
「良い物がいっぱいだけど、何がいいか分からないよ」
そういって肩をすくめる。
その様子からタカヒロは、ミオが遠慮してるのを感じた。
「こういう時は素直に言えばいいんだよ」
そう言って、「命令だ」と続ける。
「欲しい物があるならちゃんと言う事」
それで奴隷としての機能が動き出す。
魔術による強制で、所有者の命令に従わねばならない。
困ったような顔をしながらミオは、
「ええっと、でも」
と躊躇っていく。
それでも最後には、
「あの、これがいいかなって……」
と並んだ小物の一つを指した。
女物の櫛である。
そう言えば、こういった身だしなみのための道具はあまり無かったなと思い出す。
「じゃあ、それを」
小物屋の店員にそれを買う事を告げる。
ついでに、ミオに必要なものを一気に買うかと思った。
「あと、他に欲しいものとかあるか?」
「え、でも」
「だから、遠慮するな。
命令だぞ」
「うううう……」
申し訳なさそうなミオに向かって、タカヒロは所有者の強権を使っていった。




