88回 仕事の話に同行させざるえなかったが、おかげで色々と言われてしまう
「それじゃあ必要な買い付けとかはやっておくんで」
「大将は自由にどうぞ」
仲間のそんな言葉に虚を突かれた。
なんだそれは、と思う間に仲間は店へと向かっていく。
「丁度いい機会だから、嬢ちゃんとデートでもしてこい」
余計な事をいうトシノリも奴隷商人の所へと向かっていく。
残されたタカヒロは腹の底から、
「あの野郎共……」
と低い押し殺した声をあげた。
いつものように、タカヒロとミオを二人にしておこうという魂胆なのだろう。
そこまでしてくっつけたいのかと思ってしまう。
だが、仕事がないので暇ではある。
仕方なくタカヒロはミオを連れて歩き出す。
とはいえ、それはデートなどという色気のあるものではなかった。
「わざわざ連れてこんでもいいだろ」
周旋屋のオッサンは呆れた。
「仕事の話しかしないんだぞ」
「分かってるって」
それはタカヒロも承知している。
距離を置いてるとはいえ、いまだに周旋屋に登録しているのだ。
多少の挨拶回りは必要になる。
町にやってくる時は、こうして顔を出して報告や情報の提供などをする事になっていた。
モンスターの出現情報などは義勇兵には必要になる。
それに、タカヒロのところで人手が欲しいという事態になれば、周旋屋としても仕事の機会を作れる。
タカヒロも周旋屋を通して必要なものの調達が出来ればそれに越した事は無い。
専門の道具や大口の買い付けなどはさすがに無理だが、必要なものはたいてい周旋屋で揃える事が出来る。
なので、細かなものは報告のついでに購入する事になっていた。
そんなところにミオを連れてきてるのである。
一言二言言いたい事も出て来るというものだ。
「話が終わったら、ちゃんと遊びに連れていってやれ」
「だからなんで、そうなる」
「奴隷だからって働かせてばっかじゃ可哀相だろ」
「俺がこき使ってるように聞こえるんだが」
「違うのか?」
「させたくはないけど、今はしょうがないんだよ」
「だったら、嬢ちゃんの苦労を減らすために、うちで作業員を雇え」
どこまでも商売に結び付けてくるその根性に、少しだけの敬意と多大な鬱陶しさをおぼえる。
「それと手籠めにするんだから責任はとるんだぞ」
「それしか言う事ないのか!」
思わず大きな声が出てしまった。
そのやりとりを聞いていたミオは、赤面するよりも呆れて「ええっと……」と呟いている。
そんな二人にオッサンは、
「嫁き遅れになる前に、ちゃんと幸せにしてやれ」
と言ってタカヒロを追い込んでいった。
こりもせずにそんな事をいうオッサンに、タカヒロは何をどう言ってやろうかと考えていく。
だが、そんな事より仕事を優先せねばと思いなおし、必要な事をこなしていく。
無駄にして良い時間は欠片もない。




