87回 必要な物を調達するために町に買い出しにいかねばならない
新しい場所での生活は町よりも厳しく、慣れるまでに時間がかかった。
野外生活に慣れてはいたが、一時的な逗留と今後永続的に住み着くのではわけがちがう。
一時的な逗留ならば、また元の場所に戻る事が出来る。
戻った先には快適な場所がある。
だが、今はそうではない。
全てを自分達で作り上げていかねばならない。
無い物は自分達で作るか持ってこなければならない。
手間と金と時間をかけねばならない。
その重さが少しずつタカヒロ達にのしかかっていく。
それでも毎日を過ごしていかねばならない。
足りないならば手にいれねばならない。
必要ならば確保せねばならない。
無くてもしのげるなら、当面は我慢しなくてはならない。
そうやって少しずつ確実に今の場所を改善改良していかねばならない。
でなければ、いつまでも今のままなのだから。
「じゃあ、行ってくる」
馬車に乗り込んだタカヒロは、留守番の者達にそう言って出発した。
貯まった核の売却と、必要な物資の調達のためだ。
食料も生活用品も町まで買いにいかねば手に入らない。
補修が必要な武器も職人に出さねばならない。
その為、定期的に町まで出向く必要があった。
モンスターの襲撃などにも備えて、数人がこれに同行する。
特に何があるというわけではないが、久しぶりの町である。
何の催しもなくても楽しみにしている者達が多かった。
「それで、オッチャンは奴隷を購入と」
「おう。
家も一応は建ったからのお。
そろそろ買わんとな」
そう言ってトシノリは楽しそうな顔をする。
「そんなに必要なのか?」
「まあなあ。
一人で全部をやるのは大変だしのお。
飯とかは嬢ちゃんが用意してくれるが、それも頼りっぱなしも悪いし」
「だから、奴隷にやらせると」
「そういう事だ。
働き手が増えれば嬢ちゃんも楽になるだろうしな」
それは確かにそうだろう。
生活に関わる諸々は今のところミオが一手に引き受けている。
それだけではもちろん手が足りないので、タカヒロ達も手伝いはしている。
だが人手不足は深刻で、空いた時間での手伝いだけではどうにもならなかった。
トシノリが奴隷の購入をするというのは、この状況の打開に繋がる可能性があった。
「でも、一番の目的は自分の欲望解消だろ」
「当たり前だ」
素直に頷くトシノリ。
「世のため人の為も良いが、まずは自分のためだ。
でないと、いつまでたっても良くならんわい」
「それもそうだな」
これまた素直に認めて、タカヒロは頷いた。
自分の欲望を否定する事ほど愚かな事はないのだから。
これを叶えつつ、出来れば周りの者達も幸せになるのが一番である。




