86回 新天地における愉快な日々
「…………それだけっすか?」
「ああ」
「嘘だろ、何考えてんだ」
「そこは何も考えずに進むべきだと思うんだけどね」
「どこに向かってだ」
「そりゃあ、すぐ隣にいる嬢ちゃんに向かってだろ。
他に何がある」
「あのなあ……」
「まあ、大将だしなあ」
「しょうがないって言えばしょうがないかもしれないっすね」
「まあ、そのうち我慢も出来なくなって襲いかかるだろう」
「それまで待つとするかのお」
「お前らは俺に何をさせたいんだ!」
今日も怒声で朝が始まっていく。
「そんな事より、今日も仕事だ。
朝飯が終わったらモンスターを倒してきてくれ」
仲間が始めた馬鹿話を切り上げたタカヒロは、今日の指示を出していく。
とはいってもそれほど毎日違いがあるわけではない。
モンスターを倒しにいく者達と、村で作業を続ける者達で分かれて仕事をしていくだけである。
直接の収入源がモンスターの核である以上、モンスター退治は欠かせない。
田畑がまだ使えない今の状況では、これが生命線になる。
その為、人数は多めに割いていた。
それと同時に、居住地の周りを防備で固めていく。
相変わらず土を掘っての土嚢作りが続いていた。
満足のいくものになるまで、まだまだ時間はかかりそうである。
人手がどうしても少なく、作業が遅れがちになってしまうからだ。
作業の進展は人数の割には早いのだが、頭数の少なさはいかんともしがたい。
どうしても作業は遅れがちになっていく。
作業にも接近してくるモンスターの対処もあり、思うようには進まない。
地道に進めていくしかなかった。
ただ、モンスターの方はかなりの数がいるようで、結構な稼ぎになっていた。
モンスターの通り道の近くにいるせいであろう。
危険であるのは確かだが、その分成果も期待出来る。
充分にレベルの上がったタカヒロ達にとって、ここは絶好の稼ぎ場所でもあった。
そんなタカヒロ達の食事や洗濯の世話などはミオが受け持っている。
戦闘は出来ないが、生活面を支えていた。
大した設備もないので出来る事は限られているが、その中でミオは出来る事をこなしていった。
おかげで集団の生活は思ったほど下がらずに済んでいた。
その働きぶりは仲間から大変ありがたがられていた。
「いい娘だよな」
「あれが将来の姐さんか」
「大将、早く嫁にすればいいのに」
「まあ、奴隷の方がいいのかもしれないけど」
そんな声がタカヒロの耳にも聞こえてきていた。
むしろ、聞こえるように喋ってる連中がほとんどだった。
面白い話のない辺境である。
ネタに出来る事ならなんでも用いていた。
それだけ娯楽に飢えている連中にとって、タカヒロとミオの事は最高の餌である。
この愛すべき屑野郎共にタカヒロは、
「このゲス共が」
と正当な評価をくだしていた。
仕事で頼りになるくらいに真面目なのは認めつつも。
そんな周りの期待と希望と願望を受けたタカヒロは、ますます警戒心を強めていく。
下手にミオに手を出したら、それこそ最高のネタにされると。
「迂闊に手を出せんな……」
もとより不埒な真似をするつもりは……無いとは言い切れない。
だが、こんな連中の中で野生と本能に走る事は出来なかった。
仲間は自分達が望む展開を求めるほどに、タカヒロをその逆方向に走らせていく。
どちらが先に潰えるかという不毛なチキンレースは、今日も無駄に続いていく。