83回 家主であるが家の中にいるわけにもいかず
当たり前だがミオは女だ。
現在、この集落で唯一の女である。
そんな者を他の所に置いておくわけにはいかない。
下手したら誰かの毒牙にかかる可能性がある。
そうしない為にも、しっかりと戸締まりが出来る家があれば良かった。
なのだが、財政的に限界だったタカヒロ達にそんな余裕は無い。
わざわざミオの為だけに家を一軒用意する事など出来るはずもない。
このあたりはどうにか出来ないかと一応は相談はした。
だが、タカヒロ以外の者達は、
「そんなの大将の家においとくしかないだろ」
「大将の奴隷っすからね」
と全く取り合わなかった。
「いや、男と女が一緒にいるのはまずいだろ」
と反論はしたのだが、
「所有者とその奴隷が一緒で何がまずい?」
「離れてる方が不自然だのお」
と退けられる。
他の団員達も底意地の悪い笑顔で、
「いいじゃないですか、大将」
「これから身の回りの世話をさせるんですから」
「今夜からごゆっくり」
などと調子にのる始末である。
何を考えてるのか、何を企んでるのかは一目瞭然であった。
だが、言ってる事はそれほど間違ってないだけに反論も続かない。
そもそもとして、割り当てるべき家がないのだからどうしょうもない。
「まあ、難しく考える必要もないだろ。
嬢ちゃんと一緒にこれから同じ屋根の下で暮らせばいい」
最年長のトシノリの言葉に、そうだそうだと周りが頷いていく。
なし崩し的にそのままタカヒロは、ミオと同じ家に放り込まれる事になった。
(どうすっかな)
今更どうしようもないが、どうにかして何とかしたかった。
(同じ家なのはしょうがないとして。
出来れば部屋を別に出来れば……)
そんな事が出来れば苦労はそれほど大きくはなかっただろう。
物置として作った小屋は仕切りや区切りのない大広間一つだけの造りである。
本当に一緒にいる事になる。
(どうすんだよ、これ)
何度も何度も同じ事を考えながら家の中に入る。
床代わりの台が並べられてるが、剥き出しの土も見える。
雑草はある程度刈り取ったが、外と中の区別は曖昧だ。
そんな中に入ってタカヒロはため息を吐く。
(外でテントでも張るか)
今はそうするしかないかと思った。
「必要ないよ」
テントをもって外に出ようとしたタカヒロを、ミオの声が止める。
「一緒に寝ればいいじゃない」
「おいおい」
あっけらかんとした声をタカヒロは制止する。
「さすがにまずいだろ、子供じゃないんだし」
「そっかな?」
「そうだ」
さすがに理性が保てるとは思えない。
タカヒロは自分の邪念と対決しながら言葉を発していく。
「とにかく俺は外で寝るから。
お前はこっちでゆっくりしてろ」
「気にしすぎだって」
ミオはとにかくタカヒロを留めようとする。
「だいたい、奴隷がご主人様より優遇されてるのってどうなの?」
「そんな事気にするな。
奴隷として買ったけど、奴隷扱いする気は無いんだから」
それだけ言うと、タカヒロは外に出ていった。
ミオは少し不服そうな顔をしていた。