82回 ここが居場所である事を誰にも文句は言わせない
「さて」
仲間だけになった廃村でタカヒロは声をあげる。
「今日からここが俺達の根城だ」
元々の所有者だとか、この辺りを治めていた領主だとか、引いては国の承認とか。
そういった必要な手続きを無視して宣言をする。
正規の手続きでもなんでもないやり方だ。
だが、確かにタカヒロ達はこの場所を新たな居場所とした。
「でも、こんなんでいいのかな」
宣言を聞いたミオが疑問を持つ。
「だって、勝手に居座ってるわけでしょ?
ここに住んでた人達とか、文句言わないの?」
「まあ、そういう人がいたら文句は出てくるだろうな」
タカヒロは素直にそれを認めた。
「けど、そんな人が今はどれだけ残ってるか。
ここが放棄されてどれだけ経ってるのか分からないけどさ。
たぶん100年とかじゃきかないほど昔だと思うんだ。
この辺りにモンスターが出始めたのってもっと昔だし」
「じゃあ、ここって」
「その辺りから人がいなくなってると思う。
家や畑の名残があるのが奇跡だよ」
それほど長い間、この場所は放置されてきた。
ここだけではない、同じような場所は他にもある。
人類が取り戻す事が出来た場所はそれほど多くはない。
「だから、この辺りの権利者…………元々住んでた人達がどこにいるかも分からないから。
モンスターに襲われて全員いなくなったかもしれないし。
生き残りがいたとしても、もう別の場所で生活してるんじゃないかな」
その生活ぶりがどれほど大変なものかはあえて考えない。
帰る場所のない避難民の子孫が、貧民街を形成してどうにか生きてる事などこの世界の常識だ。
それはあえて口にするまでもない事である。
「だから、こういう所はあらためて入っていったのが自分のものに出来るみたいなんだ」
「へえ」
ミオはそれを聞いて驚いた。
「じゃあ、この場所は」
「俺達のものって事になるはずだ」
断言は出来ないが、慣例的にそう認められてはいた。
「先輩義勇兵のおかげだけどね」
「?」
「今までにも、こうやって潰れた村とかに入っていった義勇兵とかがいたんだよ。
で、そうすると貴族が出て来て、勝手に領主になろうとするんだ」
「新しいお殿様って事?」
「そうなるかな。
でも、それだと血みどろになって取り返した義勇兵が黙ってないんだ。
たいていは貴族と戦闘になって、場合によっては反乱になったりしてたんだって」
最近は減ったが、実際にそういった事が起こっていた。
日頃からモンスターと戦ってる義勇兵は結構な手練れである。
それがまとまった数で行動を起こすのだから、地方領主程度ではどうにもならない。
最終的に鎮圧するにしても、その為の労力が大きすぎる。
「だから、こうやって義勇兵が取り戻したところには貴族もやってこなくなった」
あくまで黙認という程度であろう。
正式に認めてるわけではない。
だが、ある時期を境に、モンスターの蔓延る地域にある廃村や廃墟は、取り戻した者達の所有として扱われるようになっていった。
「だから、この村を俺達のものにしても誰も文句は言わないだろうよ」
確証があるわけではないが、そう簡単につっかかってくるような物好きはいないはずである。
「じゃあ、ここは本当に兄ちゃんのものってわけ?」
「まあ、それで間違いじゃないはずだ。
貴族がやってくる事はないと思う」
来たとしても、下手な事をすれば周りの義勇兵が黙ってはいない。
この近隣にある街道沿いの集落などは、ほとんどが義勇兵が取り戻した場所である。
タカヒロが取り戻したこの村を横取りなどしたら、そこにいる義勇兵が黙ってはいない。
誰もが「次は俺達かもしれない」と考え、やってきた貴族を血祭りにあげるだろう。
そんな危険をおかしてまでやってくる物好きは滅多にいない。
「まあ、そんな事より目先の事だ。
何もないところだから、明日から大変だぞ」
「そうだね。
料理も洗濯も全部やらなくちゃならないんだね」
便利な脱水機や乾燥室はない。
着火用の魔術機具もない。
本当に無い無いづくしである。
「でも、ここが俺達の場所だ。
頑張っていかないと」
そう言ってタカヒロは、自分の新たな住処になった住居(仮)に向かっていく。
その足取りは少しだけ重かった。
(さて、どうしたもんかな)
ここに来て最大の問題にぶちあたる。
(ミオを何処で寝かせたもんか)




