81回 いよいよ始まるお引っ越し 5
必要な材料は物資の買い出しの時に少しずつ運び込んでいた。
少しでも運搬の手間を減らすために。
そして、大量投入した人数で、解体作業を次々に進めていく。
まずは場所を確保しなくてはどうしようもない。
新たな住処を作っていくためにも。
「それじゃあ始めるからな」
更地になった廃村で大工が声をあげる。
それが開始の合図だった。
持ち込まれた材料を次々に組み立てていく。
ある程度加工がなされた材料を使って、物置が組み上がっていく。
それは、物置というほど小さなものではなく、納屋や倉庫と言ってよい大きさだった。
だが、造りが単純なこともあってか、思った以上に早く組み上げられていく。
単純な部分は大量の作業員にまかせ、大工は重要部分のみにしぼって手を加えていく。
作業員もこういった建築現場で働いていた者が居る。
職人といえるほどでなくても建築関係の技術を持ってる者がいる。
全てを大工に委ねる必要は無い。
そのため、作業はかなり早く進んでいった。
そんな作業員を支えるための場所の確保も大変だった。
住居はないからテントを張るしかない。
作業に必要な道具や材料を補完する場所も確保せねばならない。
更に、食事を用意して食べるための場所も必要だ。
建築を支えるための様々な作業が必要になっていく。
作業自体も大変だが、それを支える支援体制の構築と維持もかなりの負担になった。
それでも比較的短期間で事が終わっていく。
投入した人員が多かったからこそであろう。
一週間もあれば外側は大まかに出来上がった。
細かなところはともかく、雨や風をしのげるようにはなっていく。
あとは中に浸水しないように周囲に雨よけの側溝を掘っていくなどの処置をしていく事になる。
ただ、あくまで物置であり、納屋や倉庫と同じ造りである。
内部は土が剥き出しで、普通に住める状態ではない。
台座を作って床の代わりにするが、それだけでは色々とたりない。
最低限住めるような状態にはなったが、本格的な住居にするには今後の改修が必要になる。
それでも一応は住居が完成した。
この場所が活動拠点になっていく。
「こんなもんでいいのか?」
「ええ、上等ですよ」
出来上がった当面の住居をみて、タカヒロは満足した。
「あとはこれから追加していきますから」
「まあ、がんばってくれ。
仕事を俺らにまわしてくれれば、なおありがたいがな」
「その時は是非」
「おう、期待しないで待ってるよ」
大工はそういって町に向かう馬車に乗り込もうとする。
「あっ、それと。
あれはあそこでいいんだな?」
最後の確認とばかりに聞いていく。
建てた物置の一つを指していく。
そこは住居ではなく物置として使う事にしたものだった。
中には廃屋解体で出て来た廃材が入っている。
「ええ、かまいませんよ。
あれも外壁の材料とかになりそうだし」
「無駄のないこって」
呆れるやら感心するやらといった調子で大工は歩いていく。
貧乏所帯ではないが、それほど裕福ともいいがたいタカヒロ達には、こういう再利用出来る廃材も必要である。
使える物は何でも使わねばやっていけない。
ましてこれからは物いりになる。
どんなものであっても無駄には出来なかった。
「まあ、がんばんな」
そんなタカヒロ達を残し、町へと向かう馬車に大工達は乗り込む。
この場に出向いてきていた者達の最終便は、そうやって出発していった。