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80回 いよいよ始まるお引っ越し 4

「荷物はこれで全部か?」

「うん。

 着替えも仕事に必要なものも、これで全部」

「少ないもんだな、意外と」

「そうかな。

 だいたいこんなもんだと思うけど」

 そう言ってミオが持つのは、少々大きめの鞄と風呂敷でつつんだ荷物が一つ。

 それほど大きなものではない。

「こういうのって、荷物箱二つ三つくらいになると思ってたけど」

「そういうのはお大尽のところくらいだよ」

「それもそうか」

 現代日本でならともかく、この世界の庶民の荷物など大したものではない。

 自然に倹約や節約をしてしまうミオの場合は特にそうなのだろう。

「じゃあ、行くか」

「うん」

 二人はそう言って待機していた馬車に乗り込んだ。



 これから大工などを含めて様々な作業が始まっていく。

 そうなると、様々な雑用も必要になる。

 人数分の食事の用意なども行わねばならない。

 それも含めて周旋屋には作業員を用意してもらっていた。

 こういった部分も含めて費用を惜しんだりはしていない。

 だが、出来る限り費用を抑えたいのも確かである。

 なので、金を支払わずに使える人員としてミオも連れていく事にした。

 あとで連れてくる手間を省くためでもある。



「これで町ともお別れなのかな」

「まあ、そう頻繁には戻ってこれなくなるだろうな」

「でも、それだと周旋屋のおじさんとかに言ってた事が出来なくなるんじゃないの?」

「何かあったっけ?」

「ほら、暇だったら手伝いによこすって」

「ああ、あれか」

 思い出したタカヒロは、少しだけ意地の悪い笑みを浮かべる。

「まあ、余裕があればな。

 あっちからこっちに出向いた時にでも」

「…………それって、実際には無理なんじゃないの?」

「無理だろうな。

 少なくとも、そう簡単には行き来できないし」

「呆れた」

「まあ、これくらいはな。

 それに、嘘を吐いてるわけじゃない。

 それだけの余裕があるなら、それでもいいよって話だし。

 何よりも、俺の方を優先するって事なんだし」

「それはそうかもしれないけどさ」

「オッサンだって納得してるだろうさ」

「どうかな、それは」

 ミオはさすがに疑問を抱く。

 だが、タカヒロはそれにも答えを出していく。



「いや、周旋屋ってこの町だけでやってるわけじゃないから。

 俺達の近くの居住地とかでも仕事はあるから。

 そこでの作業とかで仕事があるかもしれないから」

「そんな所で?」

「まあね。

 ほとんどが住み込みだけど、周旋屋から仕事を受けた作業員が出向いてるよ」

 危険な場所だからなかなかなり手がいないが、需要があれば作業員を派遣している。

 もちろん、適切な支払い能力がまずは求められる。

「危険な場所での作業だから、割増料金になるらしいけど」

「そういう所で働く事になるの?」

「どうかな。

 それは何とも。

 でも、それだけじゃないんだ」

 そういうタカヒロは少しばかり呆れている。

「さすがというか、したたかというか。

 オッサンさ、俺達に言ってきたんだ。

『お前らもこの先人手が必要になるだろ。

 だったらウチに作業員を発注しろ』ってね」

「…………それって」

「そう、働き先が俺達の場所になるかもしれないってこと」

 そうであるならば、周旋屋としての仕事としてミオを使う事も出来る。

 ミオだけでなく、他の作業員を送り込みもするだろう。

 狙ってるのは市場の拡大である。

「抜け目がないっていうか、なんていうか」

 伊達に長年仕事をこなしてないのがよく分かった。

 稼げる可能性があるなら食い込んでいこうとする。

 その意気には感服するしかない。

 受け入れるかどうかは別であるが。



「まあ、ミオにはこれから俺らの身の回りの世話をしてもらう事になるだろうから。

 周旋屋の仕事に入る余裕はないだろうけど」

 もしそうなるとしても、タカヒロ達が根城にする場所が発展しないことにはどうにもならない。

 今の状態では、とても外に働かせにいかせるような状況ではない。

 同じ集落の中であってもだ。

「本当に当分は俺の身の回りの世話を頼むことになるだろうよ」

「…………本格的に奴隷って事になるんだね」

 左手の甲にある魔術印を見てミオはため息を吐いた。

「その前に、炊き出しとかを頼む事になるけどな。

 人数がいるから大変だと思う」

「がんばって努力します」

 そう言うミオはこれからの作業について考えていった。

 今は悩んだり迷ったりしてる時ではない。

 そんな事をしていられるほど暇があるとはとても思えなかった。

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