8回 今後の身の振らせ方について考える 3
店に入って入り口の受付の前を通り過ぎて広間へと入っていく。
一階は仕事の斡旋所となってる空間になっている。
仕事を待ってる者達が屯できるように椅子や机も置いてある。
その奥に宿泊者用の食堂がある。
宿泊出来るのはその先なので、一度は食堂を通っていかなねばならない。
が、その前に受け付けで手続きを済まさないといけない。
「どうした?」
この町に来てから、この周旋屋に出入りするようになる頃からいるオッサンが出てくる。
いつも窓口にいるが、周旋屋ではそれなりの立場だという。
それなのに窓口にいるのは、本人曰く「現場主義だからだ(意訳)」である。
そのオッサンに、
「新人をつれてきた。
ここに泊まれるようにしてくれ」
と告げる。
「ふうん?」
言われたオッサンは、示されたミオを見る。
「新人ねえ」
「そうだよ」
「お前の女なんじゃないのか?」
「そんなわけねえだろ」
だったらわざわざここまで連れてこない。
だいたい、女を抱えるような甲斐性など持ち合わせていない。
金がないわけではないが女に注ぎ込むほど馬鹿にはなれなかった。
もっと別の事のために使うつもりでいたので、極力無駄遣いは避けていた。
なお、この世界において連れ込む女というのは、たいてい商売であったりする。
「じゃあ、本当に新人なのか?」
「当たり前だろ」
そう言ってミオを前に出す。
「俺と同じ村の出身。
ちょっとわけありでつれてきた」
「へえ……まあ、まともに仕事をしてくれるなら誰だろうとかまわねえよ」
そう言ってオッサンは必要な書類を用意していく。
「じゃあ、必要な事を書き込んでくれ。
文字が分からないなら俺がやるが」
なんだかんだいいつつ、周旋屋への登録作業はすすめてくれる。
ただ、ミオはまだ状況が読み込めてないのか、オッサンとタカヒロを交互に見ていく。
「安心しろ、とって食うわけじゃねえから」
不安がるミオをタカヒロはなだめていく。
「オッサンに聞かれた事に正直に答えていけ。
あとは勝手に色々やってくれる」
「いや、字が書けるならそっちで書いてくれてもかまわんのだぞ」
「手順が分かってないから、無駄に時間がかかるよ。
それよりオッサンが書いてくれた方が早い」
「……面倒だな」
鬱陶しそうにしながらオッサンはミオに必要事項を聞いていこうとする。
仕事だから仕方ないといった風情である。
そんなオッサンに、
「あ、そうそう」
と声をかける。
「この子、奴隷契約してるから。
それで何か手続きが変わるならそれもやってくれ」
「奴隷?」
訝しげに首をあげる。
「なんでそんなのがこっちに来るんだ?
契約した主人はどうした?」
「ああ、それなんだけど……」
少し言いづらそうにしながらタカヒロは事実を口にする。
「こいつの主は、俺なんだ」
「…………は?」
何を言ってんだと言わんばかりの顔で、オッサンはタカヒロを見つめた。
「どういう事なんだ?
面倒を持ち込んでんじゃねえだろうな」
「いや、そういうのじゃねえよ」
事情をタカヒロはオッサンに説明していく。
要点だけを告げた簡素なものであったが、それでも経緯は伝わったようだ。
「するとなにか────」
オッサンは呆れながら尋ねる。
「────この嬢ちゃんが可哀相だからって助けたと」
「そうなるかな?」
「呆れた」
心底そう思ってるような口調である。