76回 二人で出かけてるが、あくまで必要物資の買い足しのようなものである 3
その後、特に何をするでもなく周旋屋に戻った二人に、居残っていた連中は好奇心丸出しの目を向けた。
「おかえりー」
「どうだったすかー」
「楽しんできたか?」
「若いってのはいいのお」
口々にあれこれ言い出す連中をタカヒロとミオは無視していった。
が、ミオに近づいたサキが、
「で、どんなもの買ってきたの?」
と聞き出し、ミオが抱えていた袋の中身を見て、
「何よこれ、仕事の道具ばっかりじゃない」
と言って呆れた。
それを聞いた他の連中も、
「おいおい」
「こんな時まで仕事か?」
「もうちょっと、こう、なあ……」
「若いのお……」
と落胆、あるいは辟易としていった。
「こういうところで気が回らないっていうか」
「もうちょっと何かないもんすかねえ」
「まあ、大将らしいかもしれないけど」
「今少しはっちゃけてもいいと思うんだがのお」
などと言われる始末である。
とどめとばかりにカズマが、
「女慣れしてねえタカヒロらしいわな」
と言って皆の賛同や同意を得た。
それらを聞いたタカヒロは憮然となった。
同じようにそれらを聞いていたミオは、「ええっと」と言って困ったような笑みを浮かべた。
「で、結局それだけで終わったと」
「まあ、女物なんて何がいいのか分からないのは仕方ないっすけど」
「それならそれで、事前に誰かに聞いておいたらどうだったんだ?」
「そういう根回しなら得意だと思ってたんだがのお」
「そうか…………」
仲間からの言葉に胸を熱くするよりも頭が重くなっていくのを感じた。
なぜ一緒に出かけるだけでここまで言われねばならないのかが分からない。
いや、理解は出来るのだがそれらを受け入れたくはなかった。
(まあ、送り出す側になれば、俺もこう言うだろうしなあ……)
それが分かってるだけに何も言えなくなってしまう。
だが、帰って来てからずっとこの調子でくだを巻かれてるのは許容したくなかった。
ミオはさっさと部屋(女が共同で使ってる相部屋)に戻ってるというのに。
思わずそれが口から出てくる。
「どうでもいいが、俺はいつまでここでお前らに話題を提供する餌になってなくちゃならないんだ?」
「そりゃあ、この反省会が終わるまでに決まってるじゃねえか」
「さすがに今日の体たらくは放置出来ない大失態っすよ」
「日頃の大将らしくもない」
「少しは女に慣れておいた方がいいんじゃないかのお」
「勝手な事を言うな」
実に好き勝手に言ってくれる仲間に、何をどう言って良いのか考えてしまう。
「まあ、大将はこれからもがんばってくれとしか言いようがねえな」
「だから、何をがんばれと?!」
「今更言わなくちゃ駄目っすか?
まさかそんな事は無いっすよね」
「まあ、奴隷という離れがたい関係なんだから、時間はこれからも充分にあるし」
「だから、何をどうしろと?!」
「がんばって嬢ちゃんを手籠めにするんだぞ。
けど、焦らなくてもいいけど急ぐんだぞ。
時間は待ってはくれないからのお」
「おい!」
さんざんな言われようである。
そして仲間は更に追い打ちでだめ出しをしていく。
「まあ、嬢ちゃんを姐さんって呼ぶ日を待ってますよ」
仲間からの攻撃はこれでとりあえず終わった。
そして。
「仕事に必要なものだけってどういうわけ?」
仲間が去るとサキがやってきて説教である。
追撃はまだまだ終わらなかった。
「せめてもうちょっとあるでしょ」
「だから、何がいいか分からないからさ」
「それでもねえ……」
「ミオも、特に何が欲しいって言わないし。
変に何か押しつけてもしょうがないだろ」
「だったらもうちょっと調べておきなさいよね」
「そうしたいんだけど、誰に聞けばいいんだよ、こういうのは」
「…………そこからか」
さすがにサキも頭を抱えた。
「女の知り合いとか……いるわけないか」
「よく分かってるじゃねえか。
男所帯の義勇兵に、女の知り合いなんて出来る訳がねえ」
「いっそ、哀れね」
「もう涙も出ねえよ」
切ない事情がタカヒロ達の周囲を包み込んでいく。
「でも、事前準備を欠かさないあんたらしくないわね」
「女の伝手はないから、情報を手に入れられねえ」
「ああ……そうなんだ……」
「…………」
悲しい事情がタカヒロを中心に渦巻いていき、サキをも巻き込んでいった。
「まあ、がんばんな」
そういってサキはその場を後にした。
逃げたと言ってもよい。
そしてタカヒロは、一人残った食堂に少しだけ残った。
前世でも今生でもあまり変わらない女運を嘆きながら。