75回 二人で出かけてるが、あくまで必要物資の買い足しのようなものである 2
「といっても、すぐに引っ越すわけじゃない。
これから家を建てるから時間もかかる。
それまでは今まで通りに仕事をしていてくれればいい」
「うん」
「それに、引っ越した後も余裕があるなら、こっちの方で仕事しても構わないから」
「大丈夫なの、それって」
「毎日はさすがに無理だけど、一週間に二日三日くらいならな。
俺達が出かけてる間なら問題は無い」
「だったら、何とかなるかな」
「そこはお前が自分で決めてくれ。
無理なくやれる範囲で。
これだけは命令しておくぞ」
「分かってるよ。
兄ちゃん、本当にそれは絶対に命令するよね」
「当たり前だ。
無理して倒れたら元も子もない」
「なんか、想像してたご主人様とは違うね」
「何を想像してたんだよ」
「そりゃあ、朝から晩まで倒れるまで働かせるとか」
「そんなすぐに潰れるような使い方なんかするか」
奴隷は長持ちさせてなんぼである。
「それに、色々と用意してくれるし。
服とか着のみ着のままだと思ってたよ」
「着替えも用意しないなんてあるかよ」
「あと、仕事で必要なものももってきてくれるし。
手袋と前掛け、助かってるよ」
「水仕事だからな。
手が荒れたりすると困るだろ」
耐水性の道具はミオの仕事で大いに助かってるらしい。
「それに、こうして遊びに連れてってくれるし」
「でないとうるさいんだよ、サキが」
「サキさんはねえ……」
ミオにも思い当たる事はあるらしい。
「でも、それでもこうしてくれるんだし。
兄ちゃんがやれって言うならそうするよ」
「そう言ってくれるとありがたいよ」
「じゃあ、家が出来たらそっちに移るって事で」
「はーい。
でも、何時頃になるの?」
「早くても二ヶ月か三ヶ月はかかる。
引っ越しはそれからだな」
「じゃあ、それまではこっちで仕事ってこと?」
「そうなる。
大変だろうけど頑張ってくれ」
「分かってるよ。
兄ちゃんも無理しないでね」
「もちろんだ」
無茶をして死んでは元も子もない。
義勇兵をやってるのは死ぬためではない。
稼いで生活していくためだ。
人々を守る為、などという崇高さも存在しない。
それらは稼ぐついでに達成出来てれば良かった。
「モンスター相手に死んでたまるか」
「義勇兵としてどうなのかな」
「たいていはこんなもんだ、義勇兵ってのは」
「だからあんまり評判が良くないんだね」
「そんなもん気にしてたら勤まらねえよ」
格好よりも実利優先。
でなければ生き残れない仕事だ。
周囲の評判など気にしてるわけにはいかなかった。
「でも、欲しいものとか本当にないのか?
あるなら遠慮しないでいいんだぞ」
「そこなんだけどねー。
意外と無いんだよね。
お仕事で必要なものは思いつくんだけど」
「それはそれで問題だな」
「そうかな?」
「今度、サキと一緒に買い物にでも行ってこい。
あいつなら何がいいかを考えてくれるだろ。
適当なものを見繕ってこい」
男があれこれ選ぶよりは良いだろうという考えもある。
何より、このあたりのセンスの無さをタカヒロは自覚していた。
「でも、それだとサキさんにまた言われるよ。
『服一つ選べないのか!』って」
「ああ、あいつなら言うだろうな」
そう言って二人は笑った。




