74回 二人で出かけてるが、あくまで必要物資の買い足しのようなものである
「こんなのはどうだ?」
「うーん、どうだろ」
町にある店をうろつきながら、タカヒロとミオはそんな事を口にしていく。
さして多くもない店を歩き回るのだから、それほど時間がかかるわけではない。
だが、二人はあれこれと話しながら結構な時間を使っていた。
「普段着は確かに欲しいけど、今あるだけで充分だし」
「そうか?
遠慮ならしなくていいぞ。
もっと可愛い服とかも買ってやれって言われてるし」
「サキさんに?」
「ああ。
聞いておかないとうるさいから。
それがなくても、少しくらい好きなものを買ってもいいとは思ってるぞ」
「でも、そう言われても。
何がいいのかよく分からないし」
「そうなのか?
女って、可愛いものとか綺麗なものとか好きだと思うんだけど」
「それはそうだけど、何がいいのかなんて分からないよ」
「そういうもんか」
女はそういうものに本能的な才能を発揮するもんだと思っていた。
なので、ミオの言葉は意外だった。
(気を遣ってるのかもしれないけど)
変に金を使わせないように、と思ってるのかもしれない。
変に出しゃばらないのはミオの美点だとタカヒロは思っている。
だが、本当に変な遠慮はやめてもらいたいところでもあった。
「うーん、兄ちゃんに遠慮はしてないんだけどね」
ちょっとだけ困ったような笑みを浮かべていく。
「でも、何がいいのか分からないから」
衣服屋や小物屋に並んでる品を見ても、ミオには何が良いのか分からないものが多かった。
デザインも色合いも良さそうなものが並んでるのだが、それらの何がどう良いのか分からない。
ましてそれを自分が身につけてるところをミオは想像出来なかった。
袖を通したとしても、自分に似合うのかどうかも分からない。
「私にはちょっと無理かも」
「そっか」
タカヒロもそう言って無理強いはしない。
財布が軽くならずに済むからではない。
本人が良いと思わないなら何を与えても無駄になるからだ。
「こういうのは慣れてる奴が一緒にいないと駄目だな」
買い物の難しさを痛感する。
ただ、完全なファッションの部分以外ではミオも幾つか注文をした。
そのほとんどが、髪や袖を留める小物だった。
「仕事であると便利だから」
とのことである。
実用性重視なあたりは作業員としては優良であろう。
実用的な物は遠慮無く求めてくる。
さして高いものでもないし、あれば便利とあってタカヒロもそれらを買い与えていく。
ただ、実用品ながらもどことなくかわいらしいものを選んでいくあたりは、やはり女なのだと思った。
「ついでだから何か食っていくか」
そう言いながら焼き鳥というか、串焼き肉などを買っていく。
軽食で売られてる典型的商品の一つである。
それを買って二人は適当にぶらついていった。
「それで仕事の方はどうだ?」
「少し慣れてきたよ。
やってる事は家でやってたのとだいたい同じだし」
「そんなに難しくはないって事か」
「楽って事もないけどね」
近況も聞いていって、だいたいの状況を掴んでいく。
今のところ作業そのものは問題もないらしい。
「周りの人もいい人ばかりだし」
「そっか」
人間関係も良好なようだ。
「上手くやってるようだな」
「うん。
レベルも上がっていってるしね」
仕事をこなしながら少しずつ技術も上げている。
この調子でいけば、作業員として生きていくのは難しくなくなるだろう。
だが、そうもさせてやれなくなってきている。
「なあ、ミオ」
「うん?」
「そろそろ、俺達自分達の場所作る事になったんだ」
「…………前に言ってたやつ?」
「ああ。
もうちょっと時間がかかると思ってたけど、みんなの協力があってね。
予定より早くすすめられそうなんだ」
「そっか」
そう言ってミオは黙り込んだ。
それが何を意味するかはちゃんと分かっている。
「この町から離れる事になるの?」
「まあ、今までよりはな。
これからは家の中の事もやってもらうようになるし」
「そっか……」
返事をしながらミオは、自分が仕事から離れる事になるのを感じていった。
折角慣れてきたのに、と思いながら。
いつも一緒に仕事をして、顔なじみになりつつなってきた人達の事が浮かんできた。




