69回 早急なる引っ越しを考えていく 3
「けど、これなら金は都合がつくぞ」
言われて他の者達も考えていく。
確かに安上がりで済ませる事が出来るのはありがたい。
タカヒロへの融通を抜きにしても、これは大きな利点である。
蓄えを全部使うのは、さすがに躊躇うものがあったのだ。
「じゃあ、そうするか」
皆の腹は決まった。
「大将、俺らからも少しは金を出すぜ」
「あまり期待はしないで欲しいけど」
「でも、出した分はしっかり返してもらうっすよ」
そう言う仲間にタカヒロは、
「分かってるよ」
と返した。
「ちゃんと返す」
「そうこなくっちゃ」
「利子は免除するからのお」
「頑張ってくれよ」
「大将なら余裕っすよ」
思いの外早く、タカヒロ達は外に引っ越す事になった。
「でも、それってあんたがミオを連れてくって事よね」
話を聞いたサキがいつものように絡んでくる。
カズマも面白そうにその場にやってきている。
「やっぱり、やるのか?」
「やるって何をだ?」
聞くまでもない事だが、言わずにはおれない。
「決まってるだろ、あれだよ、あれ」
「あれってなんだ!」
「そりゃあ、卑猥なあれこれだよ。
これ以上は口に出来ねえ」
「まあ、そんな事だろうけどさ」
サキが冷めた目というか冷たい目でタカヒロを見つめる。
「あんた、ミオに変なちょっかいだしたら承知しないからね」
「俺が何をするってんだ」
「ナニに決まってるだろ」
微妙に言い方というか声の調子が違う言い方で「ナニ」と言ったカズマは、終始ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべている。
「何にせよ、奴隷だもんな。
ナニしたってゆるされるよ」
「だから、何ってなんだよ、何って」
「よしてくれ、俺はこれでも真面目で通ってるんだ。
はずかしい事なんて言えるわけないだろ」
「嘘ついてんじゃねえよ!」
「でも、本当に変な事はしないでよね」
サキが殺すつもりのにらみをきかせてくる。
「手を出すなら、絶対に責任をとるんだよ」
「分かってるって」
それくらいの分別はタカヒロも持ち合わせている。
逆らえない立場の人間に無理強いさせるつもりはない。
やるなら、相応の補償も合わせるくらいは考えている。
「ま、それよりもさ」
「なんだ?」
「ミオを連れてくのは仕方ないけど、オッサンとかが素直に行かせてくれるかねえ」
「それは困る」
周旋屋の受付に居座るオッサンは、真顔でタカヒロに詰め寄った。
「あの娘は真面目に働く良い娘だ。
それを連れて行くなんて、もってのほかだ」
「いや、もってほかって言ってもさ」
タカヒロの奴隷であるので、周旋屋がどうこう出来る事ではない。
「そっちの都合でどうにかできるわけじゃないんだぞ」
「そんな事分かってる」
「だったらなんで?」
「ああいう真面目に頑張る作業員は貴重なんだ。
それはお前も分かってるだろ」
「まあね」
基本的に作業員の勤労意欲はさして強くはない。
最後まで丁寧に仕上げるよりは、適度なところで終えてしまおうと思う者が多い。
重要な部分はしっかり手を加えるというならそれも良いが、それすらも手抜きをする事が多い。
そんな中で、ミオは真面目に最後までやり遂げようとする。
そういう気質を持つ者は貴重であった。
周旋屋としては手放したくない。
「出来ればこっちの仕事にこさせて欲しいんだ。
毎日じゃなくていい。
出来るだけで構わんから」
「そこまで切羽詰まってるのかよ」
必死さに呆れてしまう。
同時に、ミオが頑張ってるのも伝わってきた。
なんだかんだで、ここで自分の居場所を作ってたのだと。
「けど、あくまで俺の奴隷だ。
俺の身の回りの世話が最優先だから」
その言葉にオッサンは肩を落とした。