68回 早急なる引っ越しを考えていく 2
「物置なら家を建てるより安く簡単に作れるようだからのお」
そういうトシノリに、他の者達は唖然とする。
「そりゃあそうだけど」
「でも、それって家じゃないっすよね」
「まあな。
家ではない。
だが、雨や風はしのげる。
それだけでも充分だ」
野外に出てのテント暮らしが長い義勇兵である。
確かに屋根や壁があれば生活に困る事もないだろう。
「けど、物置って人が住むようには出来てないぞ」
「もちろんだ。
それは分かってる。
でもな、住めないわけじゃない。
それで充分だ」
「いいのか、それで……」
「何もわざわざ物置にしなくても……」
物置を馬鹿にしてるわけではない。
だが、住居として作られてない物置は、居住に必要な措置が全くとられてない。
室内も、適切な間仕切りなどもなされてない。
それで良いのかと誰もが思った。
「必要なものは後から追加していくつもりだ」
皆の考えにトシノリはそう答えていく。
「家に必要な部分はあとから継ぎ足していっても良い。
それで少しずつ形にしていこうと思ってる」
「まあ、そういう事も出来るかもしれないけど」
「でも、かなりきつくないか?」
だが、安く上げる事は出来る。
それに、利点もないわけではない。
「造りが単純な分、同じ金をかければ建物を大きく出来る。
色々と取り付けていく事も出来るぞ」
そうするためにまた工事をしなくてはならないが、言ってる事に間違いはない。
広さがあれば、後付で様々な追加もしやすい。
何より居住空間が大きいのはそれだけでもありがたい。
「最初を我慢すれば、あとあと快適な場所にしていけるだろうさ」
「まあ、そういうのもアリかもしれねえよな」
「長い目でみればお得かもしれないっす」
「でも、オッチャンはそこまで長生き出来るの?」
「余計なお世話だ」
ふてくされた調子でのその言葉に、周りの者達が笑う。
「まあ、オッチャンの提案も悪くないな」
「それなら、俺も幾らか融通出来る」
「どれくらい安くなるかにもよるけど、少しは協力するっす」
周りの者達が次々に声をあげていく。
それを聞いてタカヒロは嬉しくなった。
一緒にやってきた連中が、ここまで自分を支持してくれてる事を。
普通、金を貸すなんて誰もやらない。
帰ってくるかも分からないからだ。
最悪、逃亡する事だってありえるので、そう簡単に金を貸す事なんてない。
それでも、出すといってくれてる仲間はありがたいものだった。
「でも、オッチャン。
多少安くなるっていっても、物置も結構高いんじゃないのか?
金を融通しても大丈夫なのか?」
「なに、問題ない程度におさえてあるから心配するな」
「だといいけど。
でも、参考までに聞かせてくれ。
人が住めるくらいの物置ってどれくらいの値段になるんだ?」
「まあ、だいたい同じ大きさの家を建てるより安いぞ。
半額にもならないくらいのようだ」
「それは、安いな」
家に比べれば破格と言ってよい。
必要な機具や設備を取り込むにしても、家を建てるよりは値段をおさえられる。
「あれ、でもそれだと50万どころじゃないんじゃないの」
「そうだよな、もっと金が余るはずだよな」
ざっと金額を計算した者達が不思議そうに口にする。
「まあ、残った金を全部貸すわけにもいかないし」
「それもそうだけど。
でも、残った金はどうするんだ?」
「なんか使い道があるとか?」
疑問を口にしていく者達。
それらにトシノリは鷹揚な笑みを浮かべて応じた。
「まあ、身の回りの世話をする者を用意しようと思ってな。
ほれ、俺もこの年齢だ。
この先の事を考えるとのお……」
妙に含んだものを感じさせる言い方である。
誰もが訝しげな表情を浮かべていく。
(それって、どういう事だ?)
(何か引っかかるけど)
そう思ってる者達の中で、タカヒロは盛大にため息を吐いた。
「余った金で、奴隷を買うつもりなんじゃないの?」
「バレたか」
呵々とトシノリは笑う。
周りの者達は呆れていく。
「それで出せる金が減るのか」
「まあ、オッチャンの金だし、使い道にあれこれ言えないけど」
それでも、他の者達は少しだけ白い目でトシノリを見つめた。




