66回 加熱していく所有者と奴隷の周囲 2
「だったらお前らも買えよ!」
周りの連中に対してそんな反発も抱く。
よくよく考えてみれば…………いや、考えるまでもなくとんでもない発言である。
欲しいなら奴隷を買えといってるのだから。
だが、この時のタカヒロはそこまで頭が回ってなかった。
頭に血を上らせていたが。
「金を貯めてれば出来るだろ」
至極まっとうな意見である。
これ以上ないくらいの正論である。
義勇兵として生き残っていれば、それくらいの預金残高を稼ぐ事くらいは出来る。
奴隷を購入するくらいの。
だが、すぐに出来るというわけでないのも当然だ。
ものによるが、奴隷の値段はそう安くはない。
最も安いものでも100万円は下らない。
そこそこ働けるものならば、200~300万円は当たり前。
高い能力があれば400万円にはなる。
この能力には仕事に関わる高い技術もさる事ながら、優れた外見なども含まれる。
何にせよ、購入するならばだいたいこれくらいの金が必要になる。
そこそこの────だいたいレベル5くらいの技術に到達してる義勇兵ならば一年もあれば余裕で稼げる。
まともに活動をして順調にレベルをあげていけば、数年で毎月40~50万円を稼げるようになるのが義勇兵だ。
使ってる武器や防具の修繕などもあるので経費はかかるが、それでも毎年100万円は残せる。
この調子で2年か3年ほど頑張れば奴隷を購入する事は難しくはない。
それが出来ないのは、宵越しの銭を持たないからである。
その分潤う事になる者も出てくるのであるが、あまりにも地域経済に貢献しすぎであった。
「今からでも金を貯めろよ。
そうすりゃあんたらだって2年3年先はウハウハだぞ!」
やけくそ気味にそんな事を叫ぶ。
タカヒロからすれば絡まれるのが鬱陶しくてしょうがないからである。
だが、言われる方はそれを素直に受け取らない。
それどころか、余計に敵対的な態度をとっていく。
「なんだと、この野郎!」
「ふざけんじゃねえ!」
欲しいものがあるなら、金を貯めて買えという正論に対して酷い態度である。
だが、なけなしのプライドというか見栄というか虚栄心が過敏に反応する。
やってこなかった自分が悪いという揺るぎない真実に、自己を正当化したいという意識が働く。
それがタカヒロへの反発になっていった。
「まったく……」
見ているトシノリは呆れるしかなかった。
「若いのに情けない」
年長者として、それなりの頑張ってきた者として、タカヒロに絡んでる連中に呆れていた。
彼も決して順風満帆な人生を送ってきたわけではない。
長くそれほど上手くいかなかった人生を重ねてきた。
引退が視野に入ってきた時期にタカヒロに拾われて、どうにかこうにか浮上してきている。
そんな彼からすれば、堪えるべきを堪えず、努めるべきを努めてない連中の言い分に何も賛同出来なかった。
条件が悪かったわけでも何でもない。
機会はほぼ均等に存在している。
それに手をつける、そこに踏み込むかどうかは本人の意思次第である。
そんなに難しい事ではない。
やろうと思えば誰でも出来る事だ。
遊びに出るのを控えて貯金する────ただこれだけだ。
それをしないでいた連中に何の同情も出来なかった。
それでいて他人に絡んでるのは道理に反すると思ってもいた。
「嘆かわしいな」
トシノリもそれほど大きな事を言えるわけではない。
蓄えが無かったのは同じだったのだから。
ただ、タカヒロに言われて、それならばと始めてみた。
そして今、それなりの預金残高を持つようになっている。
やってみればそれほど難しくもなかった。
入ったら入った分だけ金を使う癖が残ってるうちは精神的にきつかったが。
それもある時期を過ぎてしまえばどうという事もなくなった。
ようは、やるかやらないかだけである。
それをやりもしない連中の言葉や態度は、見るに堪えないほど見苦しいものがあった。
「…………俺もああだったのかのぉ」
他人のふりをみて我が身を省みたりもした。
そんなトシノリは、頃合いをみてタカヒロを救い出していった。
無駄な争乱に自分達の頭領を引きずりまわされるわけにはいかなかった。




