62回 奴隷の今後とこれからと未来について 3
「けど、嫁はないだろ」
「ん?
なんか不満があんの?」
「いや、不満とかそうじゃなくてよお。
こいつがどう思ってるかとか考えとけよって事だよ」
言いながらミオの方を指す。
話の対象にされたミオは、「え、え、え?」と驚いている。
「いきなり嫁だなんだって言っても、困るだろうが」
「まあ、そりゃああんたみたいな平均以下の顔立ちの野郎の嫁にいけって言われたらなあ」
カズマが茶化して応じていく。
なお、タカヒロは決して美形ではないが平均を下回るほど酷くもない。
それでもそう多くを期待出来るほど優れていないのは本人が一番自覚している。
「悪かったな、こんな顔で」
「まあ、それは仕方ないけどな。
でも、この際このあたりで妥協してもらうしかないかもしれないし」
「そうそう。
奴隷だったのがどんな目にあうかは分かってるでしょ」
「まあな」
言われるまでもない。
タカヒロの所にも元奴隷だった者がいるのだから。
他に行き場所がないから引き受けたという経緯がある。
素質や素養、能力は申し分ないので、今は中心人物の一人として頑張ってもらってる。
そんな人材を、元奴隷というだけで放逐してる連中には呆れてしまう。
人として憤りもする。
だが、おかげで自分のところに来た事だけは、タカヒロは感謝していた。
義勇兵は完全に実力社会。
そこに出身や身分などはほとんど関係しない。
犯罪などの前科があればともかく、本人の性分や性質などに関わらない部分は無視される。
少なくともそれほど出自を求められる事は無い。
能力のない者は死んでいくだけだ。
モンスターは人間社会の事情など一切考慮せずに襲ってくる。
それらを退けるのは実力しかない。
これがない者は絶対に生き残れない。
そして、無能をゆるすほど義勇兵そのものが甘くない。
出来ないのは仕方ない、レベルが上がるまで頑張れ、とは考える者はいる。
だが、それでも駄目な奴は駄目なままに死んでいく。
力が足りずに足を引っ張るのは大目に見られる事はあっても、無謀や無茶を繰り返す者に容赦はされない。
それこそ出自が王侯貴族であっても、戦闘の場で問題行動を起こせばその場で処分される。
そういう世界である。
なお、没落した貴族や武家の者が義勇兵に身を落とす事はある。
実際に、馬鹿げた態度や行動で身を滅ぼす者は結構いる。
そういった者達の運命を、彼等の出身が守ってくれる事は一切無い。
これに気づくことなく、最後まで貴族や武家を押し出す輩は後を絶たなかった。
それもまた、身分社会の悪い側面であるのかもしれない。
「けど、妥協ってなんだ、妥協って」
タカヒロは二人の言葉に食ってかかる。
それに対してカズマは、思ってる事を素直に口にしていった。
「そりゃあ、この程度の見てくれの奴に、しかも義勇兵なんて最底辺の仕事をしてる奴なんだから。
褒められるところなんてないだろ」
正規の軍人になれなかった、最前線に出向いて戦う根性のない連中。
義勇兵へのそういった世間の評価を考えるに、間違いとは言い切れない。
「けど、そこまで俺の見た目は酷いのか」
「女として言わせてもらうけど、無いわね。
絶対に無いわね」
何がどれくらい無いのか分からないが、サキの言葉にタカヒロは残酷な現実を突きつけられた。
それはもう体を突き刺して心を貫通して抉り込んで来るように。
「こんなのに嫁ぐ女なんていないわ。
いたとしても、あたしが全力で止めるわ」
酷い物言いである。
だが、全てが間違ってるわけでもないので、タカヒロは何も言い返せなかった。
「奴隷だから、まあ義勇兵で妥協ってところだろうなあ」
「そうよねえ。
親に売られて、こんなのに買われて。
年季明けでもいく所無いわ、こんな経歴じゃ」
「まあ、買い取った責任もあるんだし、面倒をみてやれや」
カズマの言葉にタカヒロは全身から力が抜けていくのを感じた。
リラックスとは違う、疲労感の漂う無力感に苛まされて。