59回 奴隷の労働拡大とその条件について
「ミオが良いって言うなら文句は無いけどさ」
モンスター退治から帰って来たタカヒロは、オッサンからの話にそう答えた。
「仕事が出来るようになればその方がいいし」
「なら、暫くはうちで働いてもらうって事でいいな」
「ただ、ミオも他の連中からの仕事もあるだろうから、そっちを優先させてやってくれ」
「分かった。
そこはとやかく言わんよ」
呆気ないが、こうしてミオが周旋屋内で働く事は許可された。
「ただ、休みは入れてくれよ。
働き続けてちゃ体をこわす」
「分かってる。
週休二日で文句ないな」
「ああ、それでいい」
「お前らが戻ってくる頃合いで休みをいれさせれば、まあ、問題は無いか」
「そうだな。
それなら構わない。
けど、俺達が戻ってこなくても、定期的に休みを取らせてくれ」
「もちろんだ。
こっちだって作業員に壊れられちゃたまらん。
商売あがったりだ」
そう言ってオッサンは肩をすくめた。
あくまで商売優先であるからこその人員管理をしっかりすると言う事でもある。
オッサンのこういう所をタカヒロは信用していた。
「あと、この調子でいけるなら外での仕事を引き受けさせてもいいと思ってる。
うちでやり方をおぼえてもらってからになるが」
「出来るならそうしてやってくれ。
どんな仕事があるのか知っておいた方がいいだろうから」
「じゃあ、これも頃合いを見計らって外に出す。
これだけ出来るならそうそう問題は起こらないだろう」
「だったらいいけどな。
でも、依頼主が酷いのだったら、どうなるか分からんよ」
「それはこっちでも注意している。
ブラックリストにのるような所には行かせないよ」
客商売ではあるが、周旋屋は客を見定める。
金払いもそうだが、人使いがまともでない所には人を送れない。
周旋屋にとって作業員は商品であり、これを壊されてはたまらない。
そういう事をするような輩はどこにでもおり、事件や問題が起これば即座に記録している。
そして、どんな好条件であろうと二度と仕事を引き受けたりはしない。
こうしていかないと、どれだけ人がいても足りなくなる。
送り出す度に人が壊れて帰って来てはたまらない。
その分の保障や補填が出されてもだ。
仕事が出来る、技術を持ってる人間はそう簡単に手にはいらない。
それを壊されてしまったら、周旋屋は商売にならない。
それに、そんな周旋屋は評判を落として人がよりつかなくなる。
作業員が新たに入ってこないで消えていく。
そうしないためにも、客の選別は必要だった。
お客様は神様でもなんでもない。
むしろ悪魔のような奴だっている。
そんな中で大事にするのは、神様と言えるお客だけである。
ミオの労働条件はこうして決まっていった。
ついでにタカヒロはミオに指示を出していく。
「客先で依頼主からふざけた事を言われたら断固として拒否して抵抗しろ」
これは、依頼主が女従業員に手を出す場合に備えてである。
女には労働力ではなく体を要求する者も中にはいる。
そういった連中に良いようにされないようにするための指示だった。
もとよりミオも良いようにされるつもりはなかったが、所有者からの指示という事で明確に抵抗せねばならなくなった。
それを見ていたオッサンも、それを了承していく。
周旋屋にある作業員一覧のミオの所にもこの旨を書き込んでいった。
これで多少は他の職員達も注意を払う事にはなるだろう。
どれだけ効力があるのかは分からないが、何も書いてないよりはマシという程度には。




