57回 奴隷の気持ち
家にいた時は、とにかく何らかの作業をずっとしていた。
朝から晩まで、さすがにずっと動き続けてるわけではないが、何かしら作業をやらされていた。
家事もそうだし、縄を作ったり草刈りをやったり、とにかく様々な作業をしていた。
農村ではよくある事であり、それ程むごいというわけでもない。
働かねば食っていけないのだから、様々な作業を家族全員で行っている。
だが、それであっても家の中でのミオの扱いは決して良いものではなかった。
父と母も兄弟も、ミオの事を家の中における最下層として扱っていた。
何かあれば雑用をさせられていた。
他の者達も何らかの仕事をしてるのだから、それも当たり前と言えばそうであろう。
だが、多くの場合、それは面倒な作業の押しつけでしかなかった。
手間のかかる作業を押しつけるだけではない。
出来なければ叱責が飛ぶ。
頭をはたかれるなんてザラだ。
それも、作業のやり方を何度も教えてもおぼえないからというわけではない。
失敗した時もそうだが、上手くいっても何かしら文句を言われて叩かれていた。
駄目だった時は、「何やってんだ!」
上手くいっても、「何だこれは!」
いつもこれである。
そもそもが見よう見まねでやっているだけであり、やり方などほとんど教えてもらってもいない。
何かしら教えるとすれば、「何やってる! これはこうだろが!」と失敗した時の怒鳴り声と拳骨と一緒である。
それは教育ではない。
教える事を理由にした虐待である。
そんな事が当たり前のように繰り返されてきていた。
当然ながら親や家族への愛着などありはしない。
比べてみれば、周旋屋は天国だった。
仕事は多いが、それは家にいても同じだ。
だが、怒鳴られもしないし叩かれもしない。
仕事のやり方を教えるのに嫌みや文句などついてこない。
いや、嫌みや文句のついでに仕事を教えられるという事がない。
やり方を教える時は、ただやり方だけを教える。
それがミオには新鮮だった。
こんな事があるのだと思う程に。
(ここでずっとやっていきたい)
そう思うのも当然であろう。
(変なの)
そうも思う。
(私、奴隷なのに)
顔なじみとはいえ、買われたのは間違いない。
左手の甲をみれば、そこに契約の魔術印がある。
なのだが、話に聞く奴隷の待遇や境遇とは全然違う。
これが奴隷というならば、ずっと続けていたいと思う。
(家にいる時のほうが、もっと酷かったよ)
今こうして平穏を感じていると、そういう風にも考えていく。
家にいた頃の方がよっぽど奴隷のようなものであると。
そんな所には絶対に帰りたくなかった。
そんな事を、ちょっとした空き時間に考えながら作業を進めていく。
片付けるべき洗濯物はまだまだ多いし、毎日出てくる。
だが、終わった分だけ確実に仕事は減っていく。
何となく達成感があった。
一応は仕事なので、引き受けた者達から金も受け取っている。
それらもまたやる気に繋がっていった。
無形の財産として経験値も手に入る。
手の上に登録証を置けば浮かび上がる能力表。
そこに記されてる経験値は確実に増加している。
それもまた、自分の大事な財産なのだと思えた。




