56回 奴隷のお仕事 3
タカヒロがいない間の仕事は、忙しくはあったが暇もそれなりにあった。
任される洗濯物の量は多いが、それの配分は自分で考える事が出来る。
誰がいつ戻ってきて、何をどれだけ片付けねばならないのかも分かってる。
量は多くて期日はあっても、片付ける組み合わせは自分で考える事が出来る。
その中で片付けていく順番を決める事が出来る。
それらをどうにかすると、仕事の合間に暇な時間を作る事が出来た。
午前中はさすがにそれほど多く暇を作る事は出来ない。
洗濯を進めねばならないので、出来るだけ手を動かさねばならない。
なのだが、午後は比較的余裕が出来る。
脱水機と乾燥室のおかげで、作業が大分はかどるからだ。
昼を食べ終えてからは、かなり余裕をもって作業を進める事が出来た。
「ふう……」
天日干し出来るものをまずは干し終え、残りを乾燥室に放り込んだ。
まだ、幾らか洗濯をしておかねばならないが、それでも少しだけ手を止める事が出来る。
午後になってからの洗濯では完全に乾かすまでにはいたらない。
少しくらいならどうにかなるが、片付けられる量は高が知れている。
それでも少しでも作業を進めるために、ミオは手を動かしていく。
なのだが、働き続けてるわけでもない。
そんな事をしたら疲れて動けなくなる。
「倒れない程度に休みを入れろ」とタカヒロにも言われている。
命令や指示というわけではないが、その言葉をミオは少しは受け入れていた。
さすがに大幅に休む事はないが、こまめな休憩は入れていた。
「…………」
何もせずに、ぼーっと空を見上げる。
手を止めてる間に何をするでもなく、こうしている事が多い。
休みといっても少し手を止めるだけなので、どこかに行ったりする事は無い。
本当に仕事の手を止めて、何もしないでいるだけだ。
だが、この瞬間がミオには貴重なものだった。
これまで、作業中に手を止める事なんてなかったのだから。
(父ちゃんや母ちゃんとは違うんだな)
比べる対象があるからはっきりと分かる。
ここは家とは違うと。
親とは違うと。
自分で考えて仕事の配分は考えないといけない。
だが、しっかりこなせるならば、どういう動きをしようととやかく言われない。
作業手順については自分で考えねばならないが、だからこそ好き勝手が出来る。
頭を使わねばならないから大変であるが、休み無く動く必要がない。
作業量は多いはずなのだが、家に居るときよりずっと楽だった。
(いいな、ここは……)
それは、家には戻りたくないという気持ちの裏返しでもあった。




