5回 そして奴隷を買う事になったわけだが 5
(でも、どうしよう)
問題なのはこれからである。
そうするしかなかったとはいえ、ミオを奴隷とした主従契約をしてしまっている。
これは魔術を用いたもので、設定した期間中は解除が出来ない。
やろうと思えば出来るが、その為には高度な魔術が必要になる。
それが可能な者はそうはいない。
そもそもとして魔術を扱える者がそう多くはない。
仮に見つけたとしても、契約を解除するために必要な金はかなりのものになる。
現実問題として、奴隷としての契約を解除する事は出来ない。
なので、主従としてこれから一緒にいなくてはならなくなる。
となれば、ミオの衣食住はタカヒロがどうにかしなくてはならない。
少なくともミオの働き口を見つけるまではタカヒロが面倒を見るしかない。
しかし、これがかなり難しい。
奴隷である事はまず問題にはならない。
主人の代わりに労働させられる奴隷はけっこうありふれてるからだ。
そこらの商店や工房などの労働者に奴隷が混じってる事は、比較的見慣れた光景ではある。
そもそも、奴隷という言い方も間違いに近い。
もともとは、服従を強制される存在ではあった。
だが、昨今ではその意味合いも薄れてきている。
悲惨な目にあう者は確かにいるが、一般的な労働者と大して差がない者も多い。
奴隷契約といっても、それはどちらかというと長期間の労使契約に近いものである事もある。
決して逃げ出さないように、仕事を放り出さないように強制するための奴隷契約が大半になっている。
なので、ミオが働きに出るのはさほど難しくはない。
奴隷という身分が障害になる事は皆無と言えるだろう。
労働に従事するにあたり、問題になるのはもっと根本的な事になる。
どんな技術をもってるか、どんな経験があるのか。
こういった労働者に求められる能力が問われる。
普通の就職と変わるところはない。
加えて社会的な要因が関わってくる。
つまり、雇い口があるかどうかだ。
どれほど優秀であっても、雇い主がいなければ就職は出来ない。
当たり前すぎるほど当たり前の事である。
この世界、これがかなり少ない。
商人や職人に奉公に出るという事はあるが、その件数はとてつもなく少ない。
農業が全職業の8割以上を占めるのだから当然であろう。
だいたいにおいて、農村から働きに出るといっても、近隣の農作業の手伝いがほとんどだ。
町に出て就職なんて事はまず滅多にありえない。
よほどの伝手か幸運がない限り、商人や職人のところに入るなんて事は出来ない。
なので、ミオが仕事を見つける可能性はかなり低い。
(そうなるとなあ……)
まったくあてがない訳ではない。
唯一、どんな人間でもなれる仕事がある。
タカヒロがやってるものがそれだ。
なのだが、
(けど、さすがに……)
と躊躇もする。
何せ危険きわまりない。
死ぬ危険が常にある仕事になる。
(義勇兵は……さすがにな)