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【完結】異世界転生してモンスターを倒してそこそこ成功したので故郷に帰ったら、幼なじみを奴隷として買う事になった  作者: よぎそーと
第3章

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48回 仕事前の救いのないあれこれ

「それじゃ、行ってくる。

 仕事、がんばれよ」

「うん。

 兄ちゃんもね」

 見送りとは少し違うが、出発する前にミオに声をかけていく。

 ミオもそんなタカヒロに声を返していく。

 その場にいた出発していく義勇兵や一般労働者が、それをみて様々な反応をみせていった。

 ほんの一部の、微笑ましく見つめてる者達。

 大半の、そんな事にかまってられないほど慌ただしい者達。

 そして、羨ましそうに、あるいは妬ましそうに、より正確に言うなら怨嗟の念を込めて見つめる者達。

 それらの中でタカヒロは、より強い敵意の視線と怨念を受けていた。

 周囲の連中の態度や意識や気持ちやどす黒い雰囲気が明確な指向性をもってタカヒロに突き刺さる。

 正確に言うならば、ミオには羨望や憧憬といったものが。

 それに相対するタカヒロには、ミオへの思いがそのまま真逆に変換された物騒な感情になってぶつかっていく。

 この違いをなぜか明確にはっきりと察知してしまったタカヒロは、ため息を何度も吐き出す事になった。

(俺が何をした?)

 ミオと朝っぱらからいちゃついていた……と周りにいた連中は言うかもしれない。

 そんな甘やかなものはいっさいないやりとりだったのだが、周囲からは青春の一こまに見えてはいた。

 彼等の胸の内を言葉にすると、だいたい次のようになる。



 ────朝っぱらからいちゃつきやがって。

 ────なんであんなのにあんな可愛い娘が。

 ────って、あの左手の紋章、奴隷の魔術印かよ。

 ────ちくしょう、あんないい女と。

 ────死ね、クソ野郎。

 ────地獄に堕ちろ、ゲス野郎。

 ────俺にはなんで縁がねえんだ。

 ────いいなあ、俺も奴隷を買いに行こうかな。

 ────買いたいけど金がねえよ。

 ────あの野郎、本当に上手くやりやがって。



 人間として実に醜いものである。

 だが、嘘偽りのない真心がそこにあった。

 人間の本性など、そう綺麗なものではない。

 欲望と願望と、それを叶えられない悲哀と憤怒が渦巻いてるものだ。

 日頃は押さえつけてるそれらを、タカヒロはミオとの短いやりとりで刺激してしまっていた。

 当然ながらタカヒロとミオに周囲を攻撃する意図などありはしない。

 むしろ、この場合こんな風に思われる……というより明確に攻撃対象になってるタカヒロが哀れである。

 なのだが、この状況をどうにか出来るわけもない。

 今はただ、さっさと野外に出て、モンスターの所に向かうしかない。

 そうすれば敵意の籠もった視線や態度や雰囲気からは離れられる。

 代わりに明確な殺意をもったモンスターと戦う事になる。

 それでも、人間と違って殺して存在を消滅させる事が出来る。

 殺意もそれで終わりになる。

 人間はそうするわけにはいかない。

(害意がないだけマシなのかなあ……)

 自分に向けられてきた様々な気持ちの中に、それだけが無いのは救いなのかもしれなかった。

 苛立ちていどならば直接の害になる事はまずない。

 だが、害意は違う。

 程度の差はあっても、それは確実に攻撃になっていく。

 まだそこまで酷くなってないのは、現段階におけるありがたいところである。



(でも、何がどうなるか分からないし、気をつけておくか)

 考えすぎ、気にしすぎという事は無い。

 実際にこんな事から刃傷沙汰になる事だってある。

 喧嘩っ早いというような生やさしいものではない。

 この程度でと思うような事で殺し合いになる事も珍しくない。

 気が荒いのか、気持ちを抑える事を知らないのか。

 そうした連中が、現代日本の感覚からは信じられないような事件を起こしていく。

 この世界に慣れてるつもりのタカヒロだが、こういった部分は馴染めなかった。

 馴染もうともしなかったが。

(すれ違い様にちょっとぶつかっただけで殺し合いまで発展するんだからなあ……)

 そんな事には慣れたくもないし、受け入れようとも思わない。

 ただ、この世界はそういうものなのだと知り、相応に対処していくだけである。

 そして、こういった事態に至るほどの悪意を持ってやってくるわけではない

 この先どうなるかは分からないが。



(早めに引っ越さないとまずいだろうな)

 このまま他の多くの者達と一緒にいる事の多い周旋屋に寝泊まりするのは危険であった。

 今はまだ良いが、いずれ本物の悪意になった感情が押し寄せてくるかもしれない。

 それを避けるためにも、距離をおける場所が必要である。

(急いで金を作ろう)

 後ろ向きな理由ではあるが、あらためて家を建てようと思った。

 決意と言っても良い。

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