44回 留守の間の仕事状況 3
「居場所をただ巡ればいいだけなら問題は無いんだけどね」
「上手く動くとなると難しくてな」
モンスターの移動方向や速度、高低差などを含めた地形の状態。
義勇兵の移動速度などなど。
これらを考えて指示を出さねばならない。
出来るだけ取りこぼしを少なくしようとすると、かなり難しくなる。
「全部に手を出すのは無理だってのは分かってる。
けど、出来るだけ成果を出そうと思うとな」
「やっぱり、新しく技術を取らなくちゃならないんだろうな」
的確で適切な指示を出すためにである。
活動場所とモンスターと自分達の動きを見極めての判断が必要である。
その為の技術を新たに獲得しなくてはならないかもしれないという事だった。
レベルとして習熟度合いが示される技術には様々なものがある。
いわゆる工作・制作・製造といった、文字通りの技術から、戦闘や運動なども技術と総称されている。
ここには、知識や情報に学問といった頭を使った思考なども含まれる。
視覚・聴覚といった感覚に関わるものも技術と呼ばれている。
フトシとトシノリが言ってるのは、この中でも思考に携わる部分になる。
部隊、ひいては組織の運用のための知識。
経営や運営に関わる技術になる。
「俺はもう年だから、さすがに難しくなってきてるがな。
けど、若い奴には早めに身につけさせておいた方がいいかもしれん」
そう言ってトシノリは、自分の限界をあわせて今後についての一言を口にした。
特段考えての事ではないだろう。
熟慮や思索の果て、などというたいそうなものではない。
ごく普通に、自分が出来る事を考え、それが出来ないから別の誰かに任せるしかないというだけである。
まともに運営されてる組織ならば間違いなくなされてる事であろう。
世代交代。
それをトシノリは口にしていった。
同時にそれは、役割分担についての発言でもある。
全員が全ての技術を身につけられるわけではない。
経験値があればそれも可能だが、手に入れられる経験値には限りがある。
それを用いて満遍なく様々な技術を手に入れていっては、全ての技術を低い段階で手にするだけになる。
ちょっとした事ならこなせるだろうが、難しい事は出来なくなる。
広く浅くでもいいから様々な分野に精通してる者も必要ではある。
別の視点、別の考え、別の手段を考える事が出来るのはそれはそれで貴重である。
また、幅広い分野を網羅する事で、それらの集積から新たな可能性に気づく事もあるだろう。
しかし、この義勇兵の一団においてはそんな余裕は無い。
大手ならばそうした人間を確保したり、そういった方向で育てても活用する道があるかもしれない。
なのだが、タカヒロの15人程度の小さな集団では、そんな人間はそれほど必要でもない。
せいぜい、主に使う技術の他に、補完的に低レベルの技術を3~5個くらい修得してれば良い。
全体の運営や指示についての技術もそれと同じ事である。
「それを専門で身につける奴が必要か」
「今のまま頭がいてくれるなら問題ないがのぉ」
「今回のように、一時的にでも別行動をするとなるとな。
いない間に何がどうなるか分かったもんじゃない」
「言いたくはないが、万が一って事もあるからな。
いつも頭が言ってる通りだ」
「誰かがいなくなってもいいように、対策はたてておけ────だな」
確かにタカヒロがいつも言ってる事であった。




