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40回 心温まる仲間の反応 3

「それで、理由ってなんなんですか?」

「言い訳ならちゃんと聞くから大丈夫っす」

「駄目でもともとというか、もともと駄目なんだし、遠慮無く言ってみろ」

「今後の参考になるかもしれんからのぉ」

 そんな仲間の温かくもない言葉に、拳を握って殴ってやろうかと思った。

 それをどうにか抑えて事情を説明していく。

「いいか、こいつは買いたくて買ったんじゃねえ。

 そうするしかなかったんだ」

 そう言って、ミオの家の連中について説明していった。



 10分後。

「なるほど、言い訳にしては上手く出来てるな」

「まあ、話半分に聞いておくにしても、納得が出来る話っす」

「さすがは大将だな。

 やっぱり頭の回転がいい。

 こんなにベラベラと話が出てくるんだから」

「しかし、話が本当だとしたら、上手く狙ったもんだ。

 決断も早い。

 さすがだのぉ。

 俺じゃあこうはいかん」

 曲解をしようと励んでる仲間の声に、タカヒロは本気で戦闘を決意しようとした。

「まあ、それはさておき、その娘が売りに出されるから買い取ったのは分かったよ」

「助けるためってのが言い訳だとしても、悪い事してるってわけじゃないっすね」

「妥当な理由に思えるだけに、文句が言いづらいな」

「ちゃんと世話をするならいいとは思うがのぉ」

「あのなあ」

 さすがにこれ以上放置をする気が無くなっていく。

「お前らは俺を、そんなに悪党外道にしたいのか?」

「いやいや、したいなんてそんな事無いって。

 もともとそうなんだし」

「そうそう。

 大将は何処に出しても立派に認められる悪人っすよ」

「でなけりゃここまで生き抜いてこられないからな」

「それでこそ頭ってもんだ。

 おかげで俺らもここまで頑張ってこれてる」

「皮肉や嫌みはもう少し穏便にやれ」

 握った拳を突き出しながら警告を発する。

 はいはい、と仲間は一応頷いた。



「だが、事情は分かったがどうするんだ。

 奴隷であろうとなかろうと、世話はするんだろ?」

「そうだな。

 奴隷の世話は所有者がしなくちゃならないしな。

 そのつもりはあるのか?」

 さすがに真顔になってトシノリが、続いてフトシが尋ねてくる。

「俺らの目的を考えると、この出費は痛いと思うが。

 それは大丈夫なのかのぉ」

「事情が事情だから仕方ないとは思うし、文句は言わない。

 けど、その娘の生活費も考えると、これからが厳しくなるんじゃないか?」

「そうなるだろうな」

 それについてはタカヒロは虚栄も虚勢もはらなかった。

 やる意味がないし、何よりもそんなものは害悪でしかない。

 無駄な見栄で出来もしない事をやるというのは、事態を悪化させこそすれ有利にはしない。

 せいぜいはったりにしかならないし、そんな事を仲間にする必要もない。

「正直、そっちは遅れると思う。

 みんなと一緒にってわけにはいかないだろうな」

 これについてはタカヒロもミオを買い取った時に覚悟はしていた。



 タカヒロ達の一団の目標として、皆で家を買うというのがある。

 それが最終目標ではなく、自分達の生活拠点を手に入れるためであった。

 特別珍しい事でもなんでもなく、先を考える義勇兵の大半がこういった事を求めていく。

 安いとはいえ、寝泊まりすれば宿泊費を払わねばならない周旋屋を使い続けるのも無理がある。

 それに、物を置いておく場所なども困る。

 周旋屋に預けておく事は出来るが、それも保管料をとられる。

 だったら、自分達の家でも作っておこうという話も出て来る。



 義勇兵の稼ぎがそれなりになるからこそ出て来る発想でもあった。

 たいていは娯楽で稼ぎのほとんどを使ってしまうが、そこを控えれば小さな小屋を建てる費用くらいは作れる。

 もっとも、そこまでため込むまで生き残れる可能性が低いから、大半の義勇兵はその場限りの楽しみに金を使う。

 明日死ぬかもしれないのに、金を貯め込んでどうするのかと考えてしまうからだ。

 死んでしまえば金など使いようがない。

 それなら、我慢をしてまで金を貯める必要が感じられなくなる。

 苦労して手に入れたものを自分のために使ってしまえ、という事になっていく。



 タカヒロはそこで発想を変えた。

 死ぬ可能性があるから先の事など考えなくなる。

 なら、死亡率を下げてしまおうと。

 無理して先を狙わない。

 レベルが上がるまでは日々の生活を支える事が出来る程度で満足しよう。

 そこから先は、日々の生活にオヤツの分を加えた分くらいまで使うにして、あとは預金残高にしていこうと。

 レベルが上がっても、無理して強くて稼げるモンスターを相手にしない。

 弱くてそこそこ稼げる、日銭に幾らかの追加が上乗せされるくらいの稼ぎを続けよう。

 そしてこれを毎日、出来るだけ長く続けよう。

 これがタカヒロの考えだった。



 この考えに賛同出来る者だけ集めた。

 能力が低くても構わなかった。

 こんな事を愚直なまでに続けられる者だけを募った。

 そして、実戦でふるいにかけていった。

 能力が足りない者は容赦なくモンスターに倒されていった。

 散財をする者はどれだけ能力が高くても仲間から外した。

 能力よりも誠実さを基準に仲間を固めていった。

 そうして出来上がった一団は、それなりのレベルに上がり、それなりの蓄えも出来上がってきていた。

 そろそろ皆で家を建てようかというところまできていた。



 それを区切りと見たから、タカヒロは一度故郷に出向いたのだ。

 言ってしまえばそれは、自分を追い出した村の連中を見返すためであった。

 俺はここまでやれたんだというのを示すために。

 それくらいの見栄はタカヒロにもあった。

 それでミオを買う事になるのだから、馬鹿馬鹿しいと言える。

 目標とは別の事に金を使ってるのだから。

 無駄遣いは控えようと言っている本人がこれである。

 仲間が呆れたとしても無理はない。



 だが、ここでタカヒロの予想とは別の反応を示した。

 仲間は確かに「可愛い女を連れて来やがった!」という部分をからかいはした。

 なのだが、本来の使い道をしたことを非難する者はいない。

 彼等も事情を理解してはいるのだ。

 また、タカヒロが出任せを言ってるのではないと信じてもいる。

 結局目先の欲にとらわれて女を買った、とは見ていない。

 心配してるのは、ミオの世話をどうするのか、その分の稼ぎはどうするのかという事である。

 本来の目標であった家の購入から遠ざかる事を心配してるだけである。

 それがタカヒロにはありがたかった。


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