4回 そして奴隷を買う事になったわけだが 4
(まあ、家族に売られたらなあ)
更に言えば、ミオ以前に何人かが同じような目にあっている。
村にいた頃、タカヒロもその一幕を目にした事もある。
奴隷商人がミオの姉を連れていくところだった。
タカヒロが見たのはそれだけだったが、その前に二人ほど同じ目にあってるという。
売られた彼女らのその後は不明だ。
売られた娘がどうなるかなど、たいていの場合分からず終いになる。
わざわざ売られたあとの消息を伝える事などない。
奴隷商人も、売りに出すまでは管理するが、身請けされた者がどうなるかまでは関知しない。
奴隷というのはそういうものである。
だからこそ、多少なりとも顔見知りの娘をそんな目にあわせたくなかった。
直接の接点はほとんどないが、タカヒロの妹なども含めて一緒に遊んでいた事もあったのだ。
助ける義務も義理もなかったが、人情がタカヒロを突き動かした。
おかげで、貯めていた金の大半を吐き出す羽目になった。
だが、後悔はない。
そうしたいと思って、思った事をやってるのだ。
これで良かったと納得出来る。
それが自分を誤魔化してるのだとしても。
(それに……)
ミオの手を引きながら我が身を振り返る。
タカヒロとてそれほど良い人生を送ってきたわけではない。
とはいえ、家族がそれほど酷かったという事はない。
この世界の一般的な人間としての情愛はあったとは思う。
問題なのは、その家族の事ではない。
(前世も大概だったし)
記憶にあるそれの方が問題だった。
タカヒロは転生者だった。
それも、この世界の住人ではない。
現代日本から異世界へと転生をしている。
その前世は、それほど良いものではなかった。
そこそこ普通の家庭に生まれて育ち、それなりに成長し、一応は寿命までは生きた。
しかし、それが幸せであったとは言えない。
確かに底辺をのたうちまわるという程では無かっただろう。
一応、仕事はしていて稼ぎはあった。
食っていくだけならどうにかなった。
だが、それだけでしかなかったのも確かだ。
生活は食っていけるギリギリ。
給料は時給で休んだ分だけ目減りする。
そんな中で生きていくためにただひたすらに働いていた。
多少は遊ぶ余裕はあったが、それも派手なものではない。
それが幸せであったとはとうてい言えない。
だからだろうか、ミオに同情してしまった。
自分とは関係のない理由で不幸になる。
そういうところに陥ってるのを見捨てられなかった。
だからついつい助けようとしてしまった。
彼女を奴隷から救う事は出来なかったが、この先どうなるか分からない状態からは引き上げた。
タカヒロが蓄えを費やしても納得出来るのは、こういった経緯があったからだ。
晴れてすかんぴんに近い状態になったが、それでも構わなかった。