38回 心温まる仲間の反応
切なる願いというのは、叶わないから切実になっていく。
すぐに叶うならば願うことすらしないであろう。
それが切羽詰まるほどに求めるのは、それだけ叶わないからである。
静かに落ち着いて暮らしたいというタカヒロの願いも、そんなものの一つであった。
それが仲間によってなされたとあったら、頭を抱えるしかあるまい。
「……これはいったいどういう事っすか!」
タカヒロとは別にモンスター退治に出向いていた仲間が放った言葉である。
戻ってきて、タカヒロと顔を合わせ、そしてミオを紹介された後の事である。
最初は新しい仲間が入ってきたのかと驚いていた。
だが、ミオがタカヒロの奴隷であると聞いて、全員が硬直した。
なんどかタカヒロとミオを交互に見て、出て来た台詞がこれである。
「奴隷って、奴隷って……」
「村に帰るって言ってたはずだよね」
「まさか奴隷を買ってくるとは」
「まさか、村に行くってのは口実だったのか?」
疑問があれこれと飛び出してくる。
「しかも、こんな、こんな…………可愛い女を?」
「こりゃあ大枚はたいて買いたくもなるかのぉ」
「頭も欲望には勝てなかったか」
「いや、欲に忠実になったんだろ」
「女っ気のなかった頭がねえ」
「まあ、ようやく女に興味がわいたんならめでたい事だよ」
「だよなあ」
「まあねえ」
余計な事も口にしていく。
それらを、
「お~ま~え~ら~」
とおどろおどろしい声で黙らせていく。
「俺をいったい何だと思ってるんだ」
問いただすその声に、
「そりゃあ、俺達の大将っすよ」
「仕事をおしえてくれたもんね」
「ありがたい恩人じゃな」
「ありがたや、ありがたや」
「立派なもんだ」
と口々に褒め称える。
その直後に、
「奴隷を買えるくらい出世したもんな」
「そうそう、一生懸命稼いでたからね」
「だからこんなに早く奴隷を抱える事が出来たんだろうな」
「俺達も見習わなくちゃな」
「そうだね、大将に言われて、貯金もあるからね」
「儂も買おうかのぉ、身の回りの世話をする者も欲しいからのぉ」
「その世話ってのは、夜の方も?」
「そりゃあ、大将に見習ってなあ」
わーはっはっはっはっはっはっ、と大声で皆が笑う。
聞いていたタカヒロの額に青筋が浮かび、拳が力一杯握りしめられた。
「てめえ…………らああああああああああああああああ!」
今度は怒声がとんだ。
「で、頭」
「実際、どうしたんですか、この娘」
「そりゃあ大将が欲望解消のために女が必要だってのは分かりますけど」
「いきなり奴隷を買ってくるってのは穏やかじゃありませんぜ」
「それも、こんな上玉を」
怒声を聞いてそれまでの冗談を引っ込めた面々が詰め寄っていく。
「真面目に仕事してた大将が奴隷だなんて、さすがにちょっと考えもんですぜ」
「将来のために金を蓄えておけって言ってた頭がどうしたんすか」
「それに、故郷に帰ったのにどうして奴隷が?」
「身の回りの片付けがそこまで大変になってたのかのぉ?」
「それで、こんな上玉を?」
今度の疑問は少しはまともなものだった。
「とにかく、詳しいところをお願いします」
「大将の事だから、何かあったとは思いますが」
「なんでまた奴隷を?」
「そんな必要だとも思えないんですけど」
「やっぱり、何か考えがあるんすか?」
「まあ、頭も男ですから、女が欲しいってのも分かりますけど」
「それはそれで立派な理由だとも思いますよ」
「これだけの上玉だしな」
それらの声にタカヒロは、ため息を吐いてから口を開く。
「なるほど、こいつはそんなに可愛いのか」
全体的にそれらが色濃く滲み出ている発言ばかりである。
更に言うならば、それを元にした邪推が感じられる。
そんなタカヒロの疑問に対して、
「もちろんですよ」
「すげえ美人っす」
「よくこんな娘を見つけたのぉ」
「抜け目ないのは仕事だけじゃないって事だよね」
「才能だよな」
と仲間が素直な肯定と、惜しみない賞賛(?)を送った。
タカヒロの憤りは更に積み重なっていく。
「あのなあ……」
何をどう言ってやれば良いのか分からなかった。
いっそ怒鳴りつけてやろうかと思っていく。




