37回 村でも町でもどこででも、平穏とはほど遠い
オッサンの言葉は多少引っかかりはしたが、それでもミオをつれて町を歩く。
だいたいの物価と売られてる物を見せる為に。
一日の稼ぎがおおよそどれくらいになるのかもあわせて教える。
その範囲で何をどれだけ買えば良いのかを知るためだ。
知らないと余計なものを高額で買う羽目になりかねない。
そうならないように、何をどこでどれくらいの値段で買うのが妥当なのかを教えていく。
それほど大きくも無い町の事、それほど店は多くはない。
町に店を構えてる商店から行商人の露店まで。
全部あわせても大した数にはならない。
ざっと説明をするだけなので、一時間もしないで主なところは巡ってしまう。
ミオが必要な事を理解出来れば良いので、それはそれでも構わない。
短時間で終わるならば幸いというものだ。
ミオの理解力が意外と高いこともあって、これは予想よりも早く進んでいく。
(地の頭は悪くないんだな)
知識量という意味での頭の良さではない。
見聞きした事を吸収する事や、考える速度や発想力。
そういった部分は決して悪くはない。
その事を、店の説明などをしてまわっていく中で感じた。
(いい拾い物だったかも)
そんな事も考えた。
奴隷としたのはともかく、連れてきて正解だったかもと。
優秀な人間は出来るだけ確保しておきたかった。
教えるついでに必要なものを新たに買ってもいく。
サキとの買い物で必要なものは粗方揃ってはいる。
だが、実際に一日二日と生活してみて、それで足りないものに気づいてもいく。
だいたいが細かなものであるのだが、それらをあらためて購入していく。
「だいたいこんなもんだけど、町の様子は少しは分かったか?」
「うん、大きい場所だよね」
「まあな」
現代日本の感覚を持つタカヒロからすれば、とても小さな町である。
だが、戸数が20に満たない村しか知らないミオからはとても大きく見えるようだった。
義勇兵が持ち帰るモンスターの核でそれなりに賑わってるから、商人の出入りもある。
それが賑わいや活気に見えるのもあるだろう。
実際、核の売買による利益がもたらしてるものは大きい。
魔術機具を作る魔術師や職人などもいる。
直接手に入れる事が出来る核を求めて居住してるのだ。
モンスターとの最前線に近いだけあって、それほど多くはいない。
だが、彼等が作り出す魔術機具がこの町の売り上げに貢献している。
そのせいか、最前線のさして大きくもない町にしては賑やかではあるだろう。
「これからここで生活していくから、色々おぼえておけ。
特に金の管理はしっかりしろ。
でないと、いつ奪われるか分からないから」
一番大事な事はそこだった。
高値をふっかけるごうつくばりの商売人もそうだし、路上のスリなどもいる。
周旋屋の宿の中であっても、置いてあった物を奪っていくような奴はいる。
「貴重品は常に身につけておくか、周旋屋の金庫に入れておけ。
それでも駄目な場合もあるが、盗まれる可能性は低くなる」
治安というか民心が現代日本に比べて低い世界である。
これくらいの用心は当然なものとしておかねばならなかった。
「村でも盗みとかがあったから、そこは分かってるだろうけど」
「うん、だいたいはね」
小さな村であっても、農機具とか小道具とかを盗まれたという事態は発生する。
それらはどこからともなくやって来た余所者がやったのではない。
同じ村の中で発生する。
隣近所の連中は、生活共同体である以前に気を許せない盗人でもある。
そんなものだから、道具の管理はしっかりとやらざるえない。
また、相互監視も自然と発生し、それが盗みをやりにくくもしている。
だが、戸締まりと道具の片付けは徹底せざるえない。
そんな状態が普通なので、ミオも警戒の仕方などはある程度知っている。
「それが分かってるならいい。
とにかく油断するなよ。
村より酷い事もあるからさ」
「なんか、大変なんだね、町も」
「大変だよ、どこに行っても」
村でも町でもモンスターのいる野外でも。
生まれるまえの現代日本でだって。
どこであっても、生きるというのは大変なものである。
「静かな場所で長閑に生きていたいよ」
切なる願いであった。