32回 奴隷にやらせる町での仕事がだんだんと決まってきた、だいたいが屋内作業であるのは言うまでもない 2
「……じゃあ、頼んじゃうか」
「あまり大量に押しつけるなよ」
「分かってるって。
最低限必要になる分には留めておくさ」
何度かミオに意志を確認してから、サキはミオに仕事を頼む事にした。
「まあ、頼むからにはそれなりに礼もするよ。
仕事は仕事としてやってもらいたいしね」
「そうしてくれると助かる。
でも、周旋屋の仕事になるかもしれないから、オッサンには話を通しておけよ」
「分かってるよ」
周旋屋に所属してる者達が勝手に仕事を請け負ったり、タダで作業をこなすのは基本的に禁止されている。
多少の事ならば問題は無いが、それなりの時間、それなりの労働になるような事については、仕事として受けろと言われている。
でなければ周旋屋に金が入らないからだ。
今回、ミオが請け負う洗濯などもこれに該当する。
大量の洗濯物を洗うのも仕事として成り立っている。
現代に日本におけるクリーニング屋のようなものだからだ。
洗濯機などの道具がない分、作業量はかなりのものにもなる。
それを無料で引き受けてしまったら、仕事として成り立たなくなる。
もちろん周旋屋に所属してる者同士ならば多少の融通はきくが、それでも声をかけるようには言われている。
周旋屋の中で洗濯などを頼む場合には、その為の場所を貸し出すという形がとられる。
水場の一部を占領する事になるので、その為の代金という事になっている。
あとは、頼む者から請け負う者に幾ばくか謝礼を出すのが不文律になっている。
さすがにただ働きというわけにはいかない。
場所代とは別に、だいたい500円から千円あたりが洗濯代の相場になっている。
これが数日分の衣服、更に下着も含めてなので、高いか安いかは判断が難しいところである。
とはいえ、頼む者はそれなりの数になるので、一日中やれば結構な稼ぎにもなる。
仕事がない時の作業としては申し分ない。
「なんだったら、他の奴にも声をかけてみる?」
「まあ、それはそのうちだな。
ミオがどれだけ出来るか見てみないといけないし」
「じゃあ、試しにあたしの奴頼んでもいい?
明日からでいいけど」
「別に構わないぞ。
ミオがよければ」
言われてミオは、
「やりますやります。
折角ですし、やらせてください」
と快く引き受けた。
そんなミオをサキは抱きしめ、
「良い娘ねえ、本当に」
と頭を撫でていった。
「ところで、炊事、掃除、洗濯、裁縫って色々出来るけど、どこでおぼえたんだ?」
そこが不思議だったのでタカヒロは尋ねてみた。
「それが、これからどこに行くか分からないから、色々おぼえておけって。
父さんと母さんが言ってたから……」
「ああ、分かった分かった。
もういいよ」
事情を瞬時に察してタカヒロは話を打ち切った。
おそらく、ミオの両親は売り飛ばす際に少しでも値段がつくようにと考えたのだろう。
それで、女の仕事として基本となってるものを出来るだけ色々しこんだのだろう。
確かに身につけておけば役に立つ事ではある。
女の仕事は基本的に家の中での事になるから、こうした技術があると便利だ。
周旋屋でも仕事を見つけやすくなる。
何より、洗濯の技術が今役立とうとしている。
なのだが、それらが奴隷商人に売り飛ばすためだったのかと思うと頭を抱えたくなる。
奴隷でなくても、少しでも条件の良い奉公先に放り込むつもりだったのではと思う。
(ここまで徹底するのかよ……)
ある意味それはプロ根性と言えるかもしれない。
しかし、実の子をそこまで物として扱える事に怖気をおぼえもする。
(絶対、あいつらの所には戻せねえな……)
ミオが両親の事をどう思ってるかは分からない。
そんな者でも親は親と慕ってしまうかもしれない。
だが、そうだとしても絶対に会わせるわけにはいかないと思った。
嫌ってたり恨んでるなら尚更だ。
そんな考えを横に置き、
「じゃあ、これから町ではそうしていこう」
と声をかけた。
「うん、がんばるよ」
というミオの声に、少しだけ救われた気分になった。