おまけ2 スコップ
「それじゃやるぞ」
スコップを掲げたタカヒロに、息子二人も頷く。
長男と次男もタカヒロにならうようにスコップを持っている。
そんな三人に、村の魔術師は強化魔術をかけていく。
義勇兵としてやってきた者達だけではない。
村の学校で魔術師としての訓練を受けてきた者もいる。
それらが勉強と練習がてら魔術を使う。
そうしていく事で経験値も入るので、少しだけだが成長もしていく。
タカヒロ達はそれらを受けてあらためて森の中に分け入っていった。
遊水池や生け簀作り。
更には堤防も作る為に土木作業は必須である。
その基本はスコップにある。
本来は土を掘るだけの道具であるこれは、扱うタカヒロの技量と現場からの要望によって大きな変化を遂げていた。
モンスター退治の傍らで鍛冶能力を高めていた者の努力もあり、既にスコップとは言えない何かに発展している。
厚みを持たされたそれは、振るえば斧のようにも使えるようになっている。
それを用いてタカヒロ達のスコップは、森林伐採も含めた多目的作業道具となっていた。
もちろんモンスターとの遭遇戦に置いても多大な威力を発揮する。
付与された魔術による強化もあり、土木作業兼モンスター撃退は大幅な成果を上げていった。
この日も親子三人で森に入ったタカヒロ達は猛威を振るっていった。
生い茂る木々は振りおろされるスコップで切り倒されていく。
残った根っこの部分も、土を掘り返しながら根っこを切断されて引っこ抜かれていく。
そうやって剥き出しになった地面に更にスコップが突き刺さっていく。
そうして掘り返された土が求める形に整形されていく。
小川の流れを誘導するために、遊水池や溜め池にするために掘り起こされ、盛り上げられていく。
複数の作業を一つの道具でこなしていくタカヒロ達は、魔術の支援もあって普通に作業するよりも早く目的を達成していく。
作業途中で紛れ込んできたモンスターは実に不幸であると言えるだろう。
強化されたスコップはそこらにいる程度のモンスターを簡単に粉砕する。
ましてタカヒロは経験充分な義勇兵。
数体程度のモンスターなぞ簡単に叩き潰す。
子供達はさすがにそこまではいかないが、それでも義勇兵による強化合宿をこなした者達だ。
連日モンスター退治に駆り出され、レベルが一定になるまで戦闘をこなし続けた。
その能力は既に戦闘技術だけでもレベル5を軽く突破する。
タカヒロには及ばないが、そこらにいるモンスターに遅れを取る事はない。
この三人が出向いてる場所では、伐採とモンスター退治が同時進行で行われていく事になる。
そこに入ってしまったモンスターは不運というしかないだろう。
そんなタカヒロ達の姿を見ての事なのか、この村の子供達にはスコップを武器として選ぶ者が割と多い。
もちろん剣や槍に弓といった武器を選ぶ者の方が多くはある。
しかし、それらに肩を並べるほどにスコップを選択する者も確かにいる。
それを見てる親などは、「これでいいのか?」という疑問を抱くものもいた。
だが、戦闘にも(ある程度は)使える上に、普段は土木作業に活用出来る。
山を切り開かねばならない村にとって、一つで二つの使い方が出来るスコップは便利な道具だった。
そんな彼等が成長して、村の発展を進めていく事になるので、この選択は間違ったものでもなかった。
ただ、見栄えというか、第一印象はそれほど良いものにはならないのも確かではあった。
後年、村から外に出ていく者達の中に一定の割合でスコップを主要武器とした者達がいた。
これらは当初は笑いのネタになっていった。
さすがに土木作業道具を武器として用いるのは滑稽に思えたのだろう。
しかし、いざモンスターとの戦闘で彼等が活躍するとこの評価は変わる。
それを見ていた者達は唖然とし、そしてスコップの有用性を理解する事になる。
更に国境の外に進出していった者達は、作業道具としてのスコップのありがたみを痛感する事になる。
簡単に堀を掘って土嚢を作っていくのだ。
これほどありがたい事は無い。
加えて武器を一つ減らす事にもつながるので、荷物を多少は軽減する事も出来た。
こうしたスコップ装備の義勇兵は、外部に出た畑中庄の者達の旗印にもなっていく程である。
そして、義勇兵として活動する者達は、次のように呼ばれていった。
────畑中庄のスコップ兵
後年、そんな呼び名がつけられる畑中庄の戦士達は、戦場と開拓作業の二つで有名になっていく。
確かに戦闘と土木作業では武器を持った戦士や、土木作業専門の工兵には及ばない。
だが、今一歩届かないながらも高い水準でこれらをこなすスコップ兵は重用された。
戦場への切り込みも出来て、制圧した地域で即座に必要な陣地を構築する。
そんな彼等は素早い進軍・進出を多いに助けていった。
以後、戦場で編み出された様々な戦闘技術と、土木作業技術は畑中庄の得意分野と言われるようになる。
その頃には畑中庄は果樹園や川魚の産地であったり、製紙産業が専門になっていたが。
だが、もとが義勇兵の村であった事もあり、村の道場ではスコップを用いた戦闘技術が伝授されていった。
長閑で平和な村における、荒々しい時代の名残として。
そうなる事を知る由もないタカヒロ達は、目の前の山の斜面をならしていく。
そこを新たな果樹園にするために。
剥き出しになった地面には果樹の苗木が植えられ、将来の実りを予感させていく。
そうなるまでには数年という時間が必要になるが、何もしなければ何年経っても何も得られない。
着実な成果を得るためにも、今ここから何かをしていかねばならなかった。
「それじゃ、休憩するか」
その為の作業と、作業を続けるための一休みを繰り返しながら、タカヒロ達は山を切り開いていく。
手にしたスコップで。
今回、おまけとして二つばかり話を追加した。
作中で書ききれなかったことや、後から思いついたこともあるので。
今後も何かあればこうして追加していくかもしれない。
そこまで話の種が出てくるかどうかも分からないけど。
多少なりとも楽しんでもらえればありがたい。




