おまけ1 我が家
「どうしてお父さんと結婚したの?」
仕事から戻って家でくつろいでる最中。
さして広いわけでもない倉庫改装の我が家にて、娘がそんな事を口にした。
それを聞いたタカヒロは来るべきものが来たと思った。
(子供ってのはそういうもんなのかねえ)
自分が子供だった頃を思い出し、微笑ましいやら何やらである。
だが、すぐにその考えをあらためる。
(いや、この世界では珍しいのか?)
子供が親にじゃれつくというのは、まあ、どこでもほぼ同じだ。
しかし、そこまで親にべったり甘えていたかというと、そうでもない。
この世界、4歳や5歳になれば家の手伝いが始まる。
それがどちらかというと仕事における上下関係のような色が強くなってるような気はした。
親子関係というのが、転生前の日本とは違うのだ。
子供をあまえさせるといった事はあまりない。
それは厳格に育てるという意味ではなく、作業をおぼえさせるというものに近い。
子供の待遇は労働者の扱いに近いものがあった。
また、家を継ぐ長男とその予備である次男以外の扱いはそれほど良くない。
一応親子という繋がりはあるが、その間にあるものは少し冷えたものであった。
なのだが、タカヒロの家の場合はそうでもない
長男次男などで子供に特別な差を作ったりはしていない。
一応家を継ぐのは長男ではあるが、他の子供達とで扱いに違いがあるわけではない。
教えるべきこと、伝えるべきことなどは誰にも等しく与えている。
それに、子供に手伝わせなくても大丈夫なくらいの稼ぎもある。
何より、タカヒロ達の仕事を子供に手伝わせるのは危険過ぎる。
年端のいかない子供にモンスターとの戦闘をさせるわけにはいかない。
加えて、この世界では当たり前の共働きもそれほどない。
作業と言っても基本的には家事がほとんどで、労働的なものはほとんどしてない。
これも仕事がモンスター退治だからである。
相応の技術があるならともかく、そうでない者を戦闘に連れ出すわけにはいかない。
その為か、母親が子供を見てる時間が多い。
だからだろうか、割と子供が素直に親に甘えていく。
親子の繋がりが、この世界の他の家庭と違ったものになっていた。
その結果が、子供からの質問につながってるのかもしれない。
少なくともタカヒロはこの世界で娘がしたような質問を口にした事はない。
耳にした事もない。
そんな余裕などなかった生活でもあった。
比べてみれば、おそらくこの生活環境は他よりは良いのだろう。
そうして出来た余裕が、子供の言葉にあらわれてるのかもしれなかった。
「そうねえ」
ミオが娘の言葉に笑顔を浮かべて答える。
「お父さんが好きだったからかな」
聞こえてくる声にタカヒロは柄にも無く照れていく自分を感じた。
素面で聞くには小っ恥ずかしいものがある。
だが、すぐ次の瞬間に聞こえてきた声が、それを自分を追い込む攻撃に変化する。
「お父さんもー?」
「そうねえ」
話の方向が変わる。
娘からすれば含む所のない無邪気な質問なのであろう。
だが、タカヒロからすれば口にするのも恥ずかしいものである。
なんでそんな事を聞くのだと娘に言いたくなってしまう。
更にミオは、
「どうなのかな?」
とタカヒロの方を向く。
「ねえ、お父さん」
笑顔を向けくる女房に、タカヒロは追い詰められていくのを感じる。
ここで回答を誤魔化せば娘からの追求と糾弾が来るだろう。
それを踏まえての攻勢であろうか。
子供が生まれてからのミオはこういう攻撃が上手くなっている。
子供達のごく自然な言葉などに自分の思惑を上乗せしてくる。
そしてタカヒロはこれに滅法弱い。
今も不思議そうな顔をして見つめてくる娘と、笑顔を固定しているミオの無言の追求に対抗出来ずにいる。
(言わないと、文句言われるだろうなあ)
これまでの経験から、回答拒否したりてはぐらかしたりすると、娘からの糾弾が来るだろう事は容易く予想出来る。
父親としてそれは避けたい事態である。
となれば、素直に答えるしかないのだが。
(わざとやってるよな、絶対に)
ミオの笑顔も作って浮かべてるものだろうと思える。
実際、その笑顔はこういった追求というか回答待ちの場合によく見られるものだ。
残念ながらタカヒロに対抗する手段は無い。
「はいはい」
ぼやきながら素直に自分の思うところを開陳していく。
それを聞いた娘は何故か顔を赤くしていき。
ミオは更に笑顔を深めていった。
代わりにタカヒロは、泣きたくなった。
(どうしてこうなるんだか)
文句は無いがどうにかならないものかと思ってしまう。
絶対にどうにもならないだろうと思いながら。
そんなこんなで畑中家は今日も平和であった。
思いつきその1。
連載中に放り込みたかった話。
本来ならこういったものを中心にしたかったのだが。
なかなかそうもいかず、結局こういう形となった。
主人公の家庭はだいたいこんな調子というのが伝われば。




