253回 これも大事な一歩であると考えよう
「とはいえ、向こうにも頼んではあるんだがな」
子供達を送り出す事を決めたタカヒロは、事前にあれこれと注意事項を伝えていった。
なるべく要点をまとめて、必要な事だけにしぼろうと思いながら。
実際にはかなり膨大な小言になり、子供達を呆れさせたが。
「父ちゃん、もうそのくらいでいいから」
「いや、でもな……」
窘める長男に、タカヒロはなおも言いつのろうとする。
それを見てたミオが「そこまでよ」と声をはさんでようやく止まる。
「町じゃ頭領さんが世話をしてくれるんだろ。
だったら後はそっちで聞くから」
「まあ、そうなんだが……」
なおも心配するタカヒロに、周りの者達は「こりゃ駄目だ」と呆れた。
まあ、突き放されるよりは良いのだろうとは思ったが。
それでも、もう少し子離れが出来ないものかというのが一致した見解となった。
「それじゃ、行ってくる」
「気をつけてな」
送り出すタカヒロは、村の仲間と共に町へと向かう息子を見送った。
村の仕事があるので、タカヒロが出かけるわけにはいかない。
買い出しに出かける者達が子供達を連れて行く事になる。
あとは町の方で義勇兵の集団が受け入れてくれる事になっていた。
そこそこ腕の立つ若い者という事で、義勇兵の頭領も快く引き受けてくれた。
なお、その頭領も現在は町の統治者となってるので、自ら前線に立つ事はない。
モンスターと戦うのは別の者に既に引き継がれている。
その者達の下で子供達は活動する事になっている。
「大丈夫かな」
不安は色々とある。
町で上手くやっていけるか?
組織の中で上手くやっていけるか?
モンスターを相手に上手くやっていけるか?
町で誰かに騙されたりせずに済むのか?
考えたら切りがないほどあこれと心配がある。
今更言っても仕方ないが、どうなることやらと思ってしまう。
「考え過ぎよ」
ミオがそんなタカヒロを窘める。
「男の子なんだから、もう少し放っておきなさい」
「でもなあ」
そうは言うが、心配は尽きない。
だが、もうどうにもならないのも分かってる。
「放り出すしかないか」
「そうそう」
ようやく分かったかといった風情でミオは安堵の吐息を漏らした。
「あの子も言ってたでしょ。
『ちゃんと嫁さんを買ってくるから』って」
「いや、買うもんじゃないだろ」
「何言ってるの」
再びミオは夫を窘める。
「結婚相手を金で買ってきたのは何処の誰?」
「……まあ、それは」
何も言えなくなってタカヒロは黙るしかなかった。
そんな親の心配をよそに、町に向かう者達は元気で暢気である。
買い出しのついでに町に出向いた事はあるが、長い逗留であった事はない。
それがこれからは町で生活する事になる。
はしゃいでしまうのも無理はない。
賑わいのない山間の村にいたのだ。
町の賑わいに憧れるのは当然である。
そこでの暮らしの大変さについても考えはするが、今はそれよりも興奮の方が上回っている。
そんな仲間を苦笑しながらタカヒロの息子は見つめている。
(これから仕事してかなくちゃならないんだけどな)
現実を見つめてる彼は、どうしてもはしゃぐ気にはなれなかった。
本格的にモンスターとの戦闘が始まっていく。
しかも、義勇兵集団の中の一員としてだ。
他の者達と共と上手く連携がとれるか心配であった。
(まあ、なるようになるか)
つとめて楽観的に考えていく。
焦ったり悩んだりしても何かが変わるわけではない。
何があるのかも分からないのだから、とりあえず流れに身を任せていくしかない。
だったら、深く考えずになるようになっていくのを見つめていこうと思っていく。
(さて、どうなるのかな)
先の事についての不安もあるが、やはり未知の事については分からない事しかない。
分からない事については悩みようもない。
漠然とした不安だけを抱えながら、彼はこれからへと向かっていった。
そんな子供達は、村から外に出た者達の第一陣として、後からやってくる者達の受け皿となっていく。
その中で町に定住する者達が村との連絡役として活動していく事にもなる。
だが、それはずっと先の話。
今はまだ何も知らない少年達の集団に過ぎなかった。




