252回 因果は巡るというのでしょうか
「仕方ないとは思うけどね」
事の次第を聞いてるミオは、我が子への扱いについてこう答えた。
「でも、おかしな事はしないでよ」
父親と同様の事を口にする母親の言葉に、モンスター退治に出向く全ての者が平伏していった。
タカヒロもそうだが、その女房の言葉も無視する事は出来ない。
これにより村の子供達全体の教育方針もある程度定まる事になった。
無茶や無理はしない、必要な事はしっかり伝えていくようにと。
もとよりそのつもりではあるのだが、口にして言われた事でよりはっきりとした流れとなっていく。
それが今後細かい規定となって言葉になっていく事にもなるだろう。
だが、とりあえずタカヒロ達の村における教育方針はこの瞬間に固まったといえる。
その後の子供達の教育も概ねこの方針に従って為されていく。
既に経験を積んでいたタカヒロの息子も後輩を率いる立場として、兄弟子として活動していく。
ある程度戦えるようになったら、子供達だけでモンスターに挑んでいくようにもなった。
引率の大人達が見てる前でではあるが、子供達だけでモンスターと戦っていく。
全員が限定された範囲ではあるがレベル4くらいにはなってるのでそれほど問題もなくこなしていく。
更に必要な事を教え、隙を少なくしていく事で完璧なものになっていく。
教育が始まって2年もする頃には、子供達だけでモンスターを倒しにいっても問題がないくらいになっていた。
とはいえ、そこはタカヒロも楽観的に考えてるわけではない。
なんだかんだ言ってまだ子供である。
可能な限り大人の引率はつけておきたかった。
戦闘に何の問題もなくても、それ以外の部分では不安が残る。
野外活動に必要な能力や技術を身につけさせねば、まだまだ安心は出来なかった。
もっとも、それらを身につけてもやはり不安を懐いてしまうのが親心ではある。
それを裁ち切り、子供達だけで仕事をこなさせねばならないと分かっていてもだ。
募る不安から、より一層の教育をと思ってしまう。
どれほど経験値を稼いで技術レベルを伸ばしてもだ。
どこかで見切りを付けねばならなかった。
「いっそ、町に出すか」
そんな事をタカヒロは口にした。
村にいて目の届くところで成長させておきたい。
だが、それでは何時までも親があれこれ口を出してしまう。
それでは子供の成長によくないだろうと思っての事だ。
「町の方に出して、義勇兵として活動させた方がいいかもしれん」
それを聞いた他の者達は、
「まあ、確かに」
「それもそうかもなあ」
と頷いていく。
自分達が過保護になってる事を男連中は何となく自覚していた。
だからこそ、自分達の手の届かない所に放り込まねばならないかもと考えていった。
これに対して女房達は賛成と反対が半々といったところだった。
「そんな、いきなり」
と難色を示すもの。
「無理よ、いくら何でも」
と心配をする者。
反対意見はだいたいこんな調子であった。
それに対して賛成してる者達は、
「まあ、そういうのも必要だろうね」
「いつまでも子供じゃないんだし」
とさっぱりとしたものだった。
何となく子離れの時期を察していたのかもしれない。
そんなわけで、親の中でも意見は分かれていった。
だが、さすがにこのままで良いのかと思う声の方が多かった。
それに、村の中で全てが終わってしまう事にも危惧がある。
「村だけ見ていても問題だろう。
外にどんなものがあるのかを見てくるのも大切だ」
タカヒロの言葉に誰もが頷いた。
全員、村だけで完結してる所から追い出された者達だ。
その善し悪しも理解している。
村の事だけ考えてるようでは了見が狭くなる。
外の事も見聞きして、その上で村の事を考えるようになってもらいたいと思う者は多い。
それが子供達を町に出す事を後押ししていった。
「今度は俺らが追い出す側か」
タカヒロは苦笑するしかなかった。
余裕がないから外に放り出すというわけではない。
村にはまだ子供達を抱えるだけの余裕はある。
だが、理由は違えども子供達を外に出してる事に変わりはない。
これで良いのかとは思った。
だが、外の事も知らないで居る事の問題も大きい。
村の事を考えるにしても、外の様子くらいは分かっておいた方が良い。
そう思っての判断だ。
そうと分かっていても、果たしてこれで良かったのだろうかと思ってしまう。
「たまには様子を見に行くか」
町に買い出しにいかねばならないのは今も変わらない。
そのついでに様子を見ておこうと思いつつ、子供達を送り出す事にする。
「悪い人間に引っかからなきゃいいけど」
不安は尽きないが、それもまた勉強と割り切った。




