248回 人の悪意ではない、悪意を持った存在である
続いて更に書き記していく。
村を含め周辺全てが、国が危うくなった出来事についてだ。
モンスター領域への攻勢という、状況を考えれば誤った判断が何故為されたのか。
それがどうやって実行にうつされ、そして失敗していったのか。
その根本的な原因は何なのか。
それについて推察も含めてあらゆる事を書き記していった。
二度と同じような事が起こらないように。
そして、そうであっても攻勢そのものが消滅したりしないように。
そもそも、攻勢そのものは悪いものではない。
その時期を見定めて行うならば。
これは攻勢に限った事ではない。
ありとあらゆる方策や施策などは、やるべき時期などがある。
だから手段ややるべき事については固定して考えるべきではない。
やるかやらないか、それは状況に応じて取捨選択するべきである。
今回の攻勢については、適切な時期でもなんでも無かった。
むしろ最悪の時期に行ったと言える。
それはただただ攻勢に固執したが故に生まれたものであった。
そして、これは不運の連続でやってきた悲劇ではない。
人が、悪意を持った人によって引き起こされた人災である。
悪意をもった人間というのはどうしても発生する。
なぜそういった者が存在するのか分からないが、確実に存在する。
それらは周囲の状況や周りの状態を見たりはしない。
いや、見るには見るのだが、それらをよりよい方向に持っていくために見定めるのではない。
周りの状況が自分に都合が良いかどうか、そうでなければどうやって自分の都合に合わせたものにしていくか。
それを確かめるために周囲の状況を見つめていく。
相手を苦しめるのが楽しい────
そういった者達の性分を言い表すとしたらこうなるだろう。
より適切な表現もあるかもしれないが、とりあえずこのように表現しておきたい。
そういった考えや思いが、状況を省みずただひたすらに苦難や困難な状況に人々を陥れていく。
何の利益もなく、ただひたすら全てを無為に消耗させながら。
利益がるとすれば、そういった方向にもっていった者達にだけあるだろう。
それも、豊かになるとか儲けが出るといった事はないだろう。
あるのは、心理的な優越感、あるいは幸福感とでも言うものだろうか。
相手を貶める事を喜びとする者達にとって、他者の不幸はこの上ない幸福なのだろう。
あるいは世の中の流れを自分の思い通りに出来たという優越感だろうか。
為した事の行く末など関係なく、ただ世の中の流れを変える事。
自分の思い通りに物事を進める事。
そうしたいという性分があるようにしか思えない動きをしてる者達もいる。
事の理非や、関わる者達の利益など考えてるわけではない。
何がよりよい結果になるのかなど完全に無視している。
自分がその他大勢を従え、思った方向に向かわせる。
その事に喜びを見いだしてるからそうしている。
そうとしか思えない者達も中にはいる。
攻勢を支持した者達を振り返り、タカヒロは思うのだ。
あの時、攻勢を訴え続けた連中とは、そういった者達だったのではなかろうかと。
これにより主導権を得る事で利益を得た貴族や軍部の者達もいる。
だが、それらも結局は起こってきた声や流れに乗っただけなのではないかと。
最初の発端は権勢や富などという利益とは全く関係のないものだったのではないかと。
だとすれば、利害によって発生する流れとは別の原因があの時にあった事になる。
(そうとしか思えないもんがあったしな)
その時の事を少しだけ思い出す。
攻勢を支持していた者達が街角で声をあげてるところを。
あるいは飲み屋の片隅で行われていた政治談義を。
そこにあったのは、現実的な利害を考えてのものではなかった。
ただ勢いにまかせた声しかなかった。
話し合いなどではない、一方的な怒鳴りつけが攻勢派の主張だった。
それこそ、宗教的な思い込みというか、それしか存在しないようにしか見えなかった。
本当に勢いだけで物事を進めてるようにしか思えない。
実際、何の根拠もなく、言ってしまえば自分がそうしたいからという理由にもならない理由で動いてるのだとしたら。
勢いだけで押し切るしかなかったのだろうとは思う。
あるいは情に訴えるだけだとか。
情に訴えるのが悪いというわけではない。
情だけにしか訴えないのが悪いのだ。
だからと言って理性的になれば良いというわけでもない。
理性だけに偏るのは結局危険でしかない。
たとえへ理屈でも筋が通ってしまえば成り立ってしまうからだ。
頭でっかちというのがこれにあたるのではないだろうか。
そんなものに二度と飲み込まれないように。
また、適切な時期に適切に攻勢が行われるように。
かつては攻勢に凝り固まっていたのが、今度は防衛にだけ固持しないように。
何が悪かったのか、どうするべきだったのかを伝えていかねばならない。
それはタカヒロからの視点に過ぎないかもしれない。
だが、そうであっても何かしらの示唆になるならばと筆をとる。
(何かの役に立てばいいけど)
もしかしたら何の役にも立たないかもしれない。
それならそれでも構わないと思いながら、タカヒロは思う所を書き記していった。
仕事の合間に。
意外な事に、これが後年役立つ事になるのだが。
それはタカヒロが人生を終えてから後の事になる。
その事を本人が知る事はなかった。




