247回 村の現状と今後について
「さて……」
大分発展した村をよそ目に、タカヒロは筆をとっていく。
いつものように書類に目を通し、案件の可否を定めていくために。
村が発展していくにつれて、こうして書類と格闘する事が多くなっていた。
その分モンスターを相手にする事も減ったが、それは足を伸ばしてくる義勇兵達が片付けてくれる。
村にもモンスターを相手にする者達はいるのだが、それよりも他から流れて来る義勇兵の方が多い。
その分、村の者達は果樹園や生け簀や紙の原料となる植物作りなどに精を出している。
だんだんと仕事の内容が変わってきてる。
(子供達が成人したらまた変わってくるんだろうけど)
現在、最年長のタカヒロの長男が13歳になっている。
あと2年で成人だ。
そうなったら、子供達をつれてモンスター退治に出るようになるだろう。
なんだかんだ言っても、モンスターに対抗出来る力がないとどうしようもない。
その為に、子供達は体育として戦闘技術を学ばせてもいる。
扱う武器を限定して学ばせているが、それでもレベル3やレベル4くらいになってる子は多い。
戦力としてはまずまずなところまで上がっている。
あとはもう少し技術レベルを上げて、他を伸ばしていく事になるだろう。
危険はあるが、モンスターを倒す事によって手に入る経験値は多い。
それを元に更なる技術向上をはかっていく予定だった。
何にしても余裕がある。
生まれた子供達は多く、そのどれもが死ぬ事なく成長している。
医療と魔術による治療方法があるのが大きいのだろう。
また、予防として衛生的な知識が普及してるのも大きい。
その結果、子供達は結構な数になっている。
だいたい一家族5人くらいはいる。
総勢70人を超えている。
これだけの数の子供を養うのは大変だが、どうにかこうにかこなしてきた。
おかげで将来の労働力には困らない。
(殺伐とした考えではあるけど)
自分の考えにタカヒロは苦笑する。
子供がかわいいという気持ちはある。
だが、村をまとめる立場としての視点もどうしても入ってしまう。
子供達の事を、可愛いだけではなく労働力として見てしまうのもそのあらわれだった。
ただ、そうして捉えていかねばならない事もある。
単に子供達が可愛いというだけでは生きていけない。
仕事を教え、自立して生活出来るようにせねばならない。
そして足りなかった労働力として村を支えてもらわねばならない。
でなければ、村そのものが潰える。
村の存続だけに執着するわけではない。
自分達の手で作ってきたものを保ちたいという気持ちはあるが。
その為に子供達を犠牲にするわけではない。
人が生きていく場所を保つために必要な努力をしておかねばならないだけだ。
いずれ潰える日が来るかもしれないが、それならば仕方ない。
だが、普通に活動してれば苦もなく保てるものを、怠惰の果てに失うような事はしたくない。
この村も果樹園と生け簀による川魚の養殖。
そして紙の作成で少しずつ食い扶持を増やしている。
それらを上手く保って、子孫の生活の糧にしてもらいたかった。
(モンスターもいつまでも出て来るわけじゃないだろうし)
多少は出てくるとは思う。
だが、国境に兵士が配置されていき、流入するモンスターも減ってきている。
そのうちモンスターだけで食っていく事も出来なくなる。
そうなった時の事も考えておかねばならない。
(でも、ある程度は流出するだろうな)
果樹園などを拡大させていっても養える限界はある。
いずれ人口流出も起こるだろう。
それは仕方ないものとして諦めるしかない。
それでも、何人かの子孫が生活圏としてここを確保出来るようにはしておきたかった。
(書いておくか)
子孫宛に、そういった事も記録として書いていく。
養える限界以上には収容出来ないことを。
そうなった場合には、何人かが外に出ていかなくてはならない事を。
そうなった場合に生きていけるように、必要な教育はさせてやるべきだという事も。
(なんだか、村の連中と同じだな)
かつて自分がどうして村から追い出されたのか。
その理由が今まさにここにあった。
(仕方ない事なんだろうな)
納得したくはないが理解は出来てしまう。
そうせざるえないというのは、嫌でも分かってしまう。
(まあ、その対策として)
村から出た先に受け入れ先を作っておくように書き記していく。
モンスター退治でも技術集団の工房でも、物品売買の商会でも。
食っていくための何らかの手段を構築するように書いておいた。
単独で頑張るよりは楽にやっていけるように。




