240回 もういっそ鞍替えをしてしまおうかと 6
「まあ、それはともかく。
頭領にとって都合が良いものの一つに神社の智慧があります。
これからを考えると、それに接する事が出来るのは大きいかと」
自分の都合を述べたあと、更に頭領にだめ押しをしていく。
それは、あまり旨みのない神社領の意義を並べる事ではある。
それほどまでに神社領というのは見向きもされなものではあるのだ。
だが、様々な伝統に接する事が出来るというのは確かな利益でもあった。
社会とは積み重ねによって成り立っている。
過去の世代が積み上げてきた努力の成果が今である。
知識も技術も継承されてきたからこそ今も用いる事が出来る。
画期的な発見や発明も、一代で潰えてしまったらその後に用いる事は出来ない。
失敗はさすがに継承されてしまっては困るが、失敗したという事実が伝われば対処も考える事が出来る。
良いものはそのまま残していく。
駄目なものは二度としないように教訓とする。
それをやる為にも過去の積み重ねが必要になる。
神社はそれを保っている。
「それに接する事が出来るだけでも大きい」
「そういうもんか?」
「多分。
絶対にとは言えないけど、得る物はあるはずだ。
この先、町を運営していくなら特に」
義勇兵の集団を束ねるようにはいかなくなる。
曲がりなりにも町を作っていくなら、その為の手法を手に入れねばならない。
当然ながら義勇兵達にそんなものはない。
だからこそ、神社にある記録などが役立つだろう。
それに、神社領を運営してきたのだ。
それらを得る事が出来れば、今後の役に立つ。
「今の俺達に無いものが神社にはあるはず。
それを得るためにも、神社領は利用価値があると思う」
「なるほど」
頭領も納得した。
彼も今のままやっていく事に限界を感じていた。
それを打破できるならば労を惜しまないつもりでいる。
「だいたいそんなところか」
「まあ、そうですね。
頭領の声にタカヒロは頷く。
言いたい事は大分言えたはずである。
あとは頭領がどう判断をするかだ。
「まあ、悪い話じゃなかったとは思う。
けど、すぐにそうするかどうかはな」
「でしょうね」
当然だと思った。
いくら利点があるとはいえ、簡単に決められる事ではない。
この先、集団の幹部などとも話合う必要が出てくるだろう。
神社領についての詳しい所も知る必要がある。
早くても何ヶ月かは決定にかかるはずだ。
それも仕方ない事だとは思う。
実際、神社領になる事の問題もあるはずだ。
それらを調べてはっきりさせておかねばなるまい。
「とりあえず、商人達から聞いてみるか」
もっとも簡単に行える情報収集である。
行商人ならあちこちに出向いてるので、現地の情報に詳しい事がある。
神社領についても何か聞き出せるかもしれなかった。
「なんだか大変だな」
「面倒を押しつけて申し訳ない」
頭を下げてタカヒロは、手間をかけさせる事をあやまった。
頭領は苦笑するしかない。




