239回 もういっそ鞍替えをしてしまおうかと 5
「あとは神社なら俺達を売り込める」
力のない神社だけに、具体的な介入は期待出来ない。
問題が起こったとしても、それの解決のために何かを求めるというわけにもいかない。
だが、それは同時にタカヒロ達にとっては絶好の機会になり得る。
「もし何かあった場合に助けてやれば、恩を売ることも出来る。
神社としても少しは便宜をはかるだろうさ」
神社の名前で何かしらの声明を出してくれるかもしれない。
神社領を通じて、周囲に何らかの呼びかけをしてくれるかもしれない。
実効性は疑わしいが、そういった事をしてくれるだけでもありがたい。
大義名分があればはかどる事だってあるのだから。
「力のない神社だからこそ、俺達がその力になる事も出来る。
頭領なら兵隊を動かして神社の軍隊になる事だって出来るだろうさ。
そうなりゃ、神社だって頭領や俺達の価値に気づく」
モンスターが蔓延る世の中である。
それらの脅威から人を守る必要だってある。
そういった場合に頭領が義勇兵を派遣すれば、神社とて無視は出来なくなる。
「金だってある。
密輸経路で稼いだ金があれば、神社だって助かるだろうさ」
あれば便利なのが金である。
質素倹約に生きるにしても、最低限の金は必要になる。
神社とて例外ではない。
神社で働いてる者達を養うためにも、必要な物を用意するためにも金は必要だ。
それを多少なりとも提供するなら、それなりに重用はするだろう。
「ふざけた態度をとってきたら、それなりの教育も必要になるけど」
相手が調子にのってきたら相応の対処が必要にはなる。
だが、それであっても持ってる力を示し、それを利用するのは利点がある。
利用される危険もあるが、粗略にされる事も無いだろう。
「お互い、利用価値がある間は仲良く出来る。
それで国を牽制出来るなら安いもんだ」
そして、自分達の勢力を神社を通してあちこちに売り込む事が出来る。
味方を増やす事も出来るだろう。
「神社は弱い。
名前だけの存在だ。
だからこそ、俺達が食い込む余地がある」
なんだかんだ言ってそれなりの力がある王侯貴族達の中ではそうはいかない。
のし上がるなら、神社の方がまだしも可能性はあった。
「なるほど」
タカヒロの話を粗方聞いた頭領は、それをもとに考えていった。
「確かにそうなる利点はあるな」
「そう思ってもらえると助かる」
頭領の言葉にタカヒロは安心した。
少なくとも今の時点では悪い印象は抱いてないようだったので。
だが、そんなタカヒロに頭領は直球をぶつける。
「けど、まだ見えないのがある。
お前の利点だ」
「…………というと?」
「まあ、確かに俺らにとって悪い話じゃないとは思う。
けどよ、それをすすめるお前にはどんな利点があるんだ?
そこが見えてこない」
聞かれてタカヒロは「さすがだな」と思った。
伊達に集団の頂点に立ってるわけではない。
美味い話ではあるが、それを持ってきたタカヒロの本意も気にしてるようだった。
けしかけられてるのが分かってるのだろう。
だからこそ、話をもちかけたタカヒロの考えが気になるのだろう。
(まあ、知られて困るわけじゃないし)
隠す事もないのでタカヒロは理由を話していった。
「……というわけで、親戚とかがやってきた場合の撃退手段を作っておこうと」
「なるほど、よく分かった」
真剣な顔で頭領は頷いた。
神社領に入る利点や問題を話していた時よりもよっぽど。
「お前も苦労してるんだな」
「ええまあ。
そういう頭領も?」
「まあな。
俺もそうだけど、うちの連中にも同じようなのがいてな。
金回りがよくなった途端にすり寄ってくる連中ってのはいるんだよ」
どこもかしもこも似たようなものであるようだった。
「困ったもんですね」
「まったくだ」
二人とも同じ悩みを持つ者として通じ合う何かを互いに感じていった。




