237回 もういっそ鞍替えをしてしまおうかと 3
「俺達が他の連中を傘下に入れるとなると反発もあるだろう」
感情的な問題でもある。
義勇兵に限らないだろうが、自分の城を作り上げた者達はそれを手放そうとはしない。
どんなに小さくてもだ。
それをまとめようと思ったら、そうとうな手間がかかる。
だからといって共同代表といった形にするわけにもいかない。
下手に全員の立場を同じにしたら、それこそすぐに分裂する。
共に手を取り合って、というのは一見すると美しいかもしれない。
しかし、責任の所在が曖昧で、決定権が誰にもないとも言える。
何か事あるごとに意見が衝突し、まとまるものもまとまらないとなっては意味が無い。
時には、誰かの意見を否定してでも強行せねばならない事もある。
共同代表、会議などで組織を運営する場合、これが出来ない。
なので、どうしても誰かが上に立たねばならない。
「そうなると、戦争するしかなくなるかもしれない。
従わないなら力尽くでもってね」
それしかない場合もあるだろうが、今の状況では悪手である。
一つにまとまるのが目的なのに、争いあっていては意味がない。
「そうならないためにも、神社領って事でまとまった方がいいとは思う」
権威を利用するという事での統一である。
規模の大小という違いはあっても、基本的には同じ義勇兵である。
その義勇兵の下に入るというのが我慢出来ない者達は出てくるだろう。
それを従わせるとなると、力による制圧か、より大きな立場や権威を持ち出すのが無難になる。
幸い、神社は(権威とは言い難いが)人々を納得させるだけの存在感はある。
他の誰かの、自分と同じ立場の者の下に入るのは嫌でも、神社領という形でならばと考える者も出て来るだろう。
あくまで他の誰かの下というわけではなく、神社の領域として同格であるという名目は立つからだ。
もちろん神社領の中でも格の違いはある。
役目や役職もあるので、誰かに従う事にはなる。
結局は他の義勇兵の下につくという事もありえる。
だが、それでも力による制圧よりはマシな状況にはなりえる。
「頭領に従うんじゃない。
神社の下に入る、自分達も神社になる。
その方が幾らかマシだと思う連中だっているだろう。
そういう所を取り込んでいける。
全部が全部従うわけもないだろうけど、頭領が声をかけるだけよりは多くなるんじゃないかと思う」
「それはそれで少し残念だな。
俺に従えない連中が多いってのはな」
「それが神社の強みだよ。
伊達にあちこちに国に存在してるわけじゃない」
実質的な力はないとはいえ、その範囲は広いのが神社だ。
複数の国にまたがって存在しているのだから。
それもまた神社の強みである。
極端な話、国をまたいだ通信網を構築する事が出来る。
国境をまたいでの出入りが可能だからだ。
巡礼など条件は限定されるが、神社の強みはこういったところにある。
これもまた、王侯貴族などの統治者が迂闊に神社に触れない理由であった。
「その中の一つになれるんだと思えば、納得する奴らだって出て来る」
「しない奴らはどうするんだ?」
「その時は、集まってきた連中と一緒に攻め込めばいい。
そうすりゃ、少しは考えも変わるだろうさ」
「物騒だな」
そう言いつつも頭領は笑っていた。
神社領になる利点が分かってきたようだった。
まず、神社領という形である程度の集団を集める。
それから、敬遠してる者達を囲んでいう事を聞かせる。
出来れば避けたい強制的な手段ではある。
だが、それが実行可能であるというのは大きな強みではある。
「神社領にならなくても圧力はかけられなくもない。
頭領のところの商売に参加させないって言えばね。
あくまで身内だけでやっていくって事にすれば、参加する奴らも出て来るとは思う」
だが、それだけではやはり理由として弱い。
どうしても脅迫という形にもなる。
それは力による制圧と本質的に同じである。
相手の意志を踏みにじるという部分については。
「それを避けるためにも、みんな同じ立場だって言い訳を作っておきたい」
あくまで神社領という形で皆の立場は同じだという事にする。
それが各義勇兵集団がもってる意地や矜恃、プライドを納得させる事にもなるだろう。
他の義勇兵を納得させるだけの建前。
王侯貴族を介入させない後ろ盾。
それを得るのに神社領というのはうってつけだった。
「あとは税金だな」




