234回 遠くにも目の前にもある懸念事項
「父ちゃん、どうしたの」
悩んでるところに息子が近づいてきた。
心配してるのかタカヒロの顔を見上げている。
そんな息子に、「ちょっとな」と言って頭を撫でてやる。
だが、それが気にくわないようで、息子は顔をしかめる。
「そういうの、いいから」
以前はこうされるのを喜んでいたのだが、もうそういう時期は過ぎたようだ。
子供扱いされると途端に機嫌が悪くなる。
大人に憧れるというか、子供扱いされるのが嫌になってきている。
それも成長なのだろうが、少しばかり寂しい。
親離れされてるようで切ないものがあった。
(もう少し甘えてくれるもんだと思ってたけど……)
子供の成長は親を突き放していく。
一瞬足りとて留まらず、ただひたすらに進んで行く。
そうであるべきなのだろうが、だからこそ辛いものがあった。
この子供に余計な問題がふりかからないようにしておきたいものだった。
生きていれば様々な事に巻き込まれるものではあるが。
それでも、親の因果にまで付き合わせたくはなかった。
どうにかして因縁を断ち切りたい。
なんとか精算をしたい。
そう思いつつも、それがままならない。
悩ましいところであった。
(なるようになるしかないんだろうけど)
どうあがいたってどうにもならない事はある。
人の手に余る事などそこらに転がっている。
それらをどうにかしようというのは、おこがましい事なのかもしれない。
それでももがいてどうにかしたくなるのも人の性分である。
(どうしたもんだか)
生意気になってきた我が子を見つめながら、あれこれと思案をしてしまう。
「そんな難しい顔をしないの」
再び何か無いかと考えてると、今度はミオに窘められる。
「どうせ良い考えなんて出てきてないんでしょ」
「まあな」
「だったら悩んでも無駄よ」
はっきりと言うと女房は、
「そんな事より家の改築の方を考えてよ。
さすがに今のままは無理よ」
と現実的な事を口にする。
確かにその通りで、子供が大きくなってくると今のままでは手狭である。
既に一度増築して部屋は増やしてあるのだが、それだけでは足りない。
いっそ、一度解体して建て直した方がいいのではとすら思える。
「二階建てに出来ればなあ」
村の広さの都合で、一軒あたりの面積はこれ以上増やせない。
となれば上にのびていくしかない。
幸い、この世界の建築技術でも二階建てくらいは問題なく作れる。
必要なのは、それだけの金である。
稼ぎは相変わらず高水準を保っているが、さすがに増改築するとなると簡単にはいかない。
まして解体して建て直すとなったら今の蓄えでは足りない。
村の設備投資にも子供達を含めた家族の生活費にも、毎度毎度大量の金が費やされていく。
もちろん稼ぎの全てが消えるわけではないのだが、手元に残る分はさほど多くはない。
それもまた悩みの種だった。
(いっそ、神社領にでもしちまうかな)
そんな事すら考えてしまう。




