231回 それはそれで、これはこれ
ただ、出身の村がどうなっていようと、タカヒロには関係のない事である。
状況には同情するが、それ以上に何かをするつもりは全く無い。
それほど親愛の情を抱ける場所でもないし、そんな相手もいない。
邪険という程では無いが、さして大事に扱われたわけでもないので、親兄弟であっても情は薄い。
そうなるように仕向けてきたのだから、その意志に沿いたいというのもある。
親が求めた事なのだから従ってやるのが親孝行だという考えでタカヒロは生きている。
何より、厄介事は御免だった。
今のタカヒロに大事なのは出身地でも親兄弟でもない。
自分の女房子供と仲間である。
それらと作り上げてる村である。
他がどうなろうと知った事ではない。
自分への悪影響が出ない限りは放置する事にしている。
そんなタカヒロの周囲の状況は、まずまず良くなっている。
モンスターの出現数の多さが問題だが、それを除けば順調なものだ。
小さいながらも少しずつ発展させていっている。
計画段階だが、ここで出来る産物を揃えていこうとしている。
子供達の育成環境も、それほど悪くはない。
村だけではなく、その周囲も以前よりは良くなってきている。
密輸から始まってる流通経路は途絶えることなく活動し、様々な物品が流れるようになっている。
国境地帯限定であるが、関税のない区間が経済の発展を促している。
その近くに住む者達は、そこにいけば比較的安い値段で様々な物品を手に入れる事が出来る。
買い手にとっては天国である。
それは売り手にも言えた。
町で商売をするなら免許が必要になる。
だが、国境沿いの地帯はそんなものが全くいらない。
好き勝手に参入が出来る。
そして、買い手もそこそこいる。
人が行き来する活発な場所であるから、そこに行けば何かしら売れる可能性がある。
何より商売相手には義勇兵がいる。
そこそこ金を持ってるので、求めるものを持っていけば売れる可能性は高い。
独自に拠点や集落を作ってる連中ならなおさらだ。
比較的大型の設備ですら求める所もある。
そういう所に商談を持っていけば大きな取引を成立させる事も出来る。
零細の行商人にとっては出世の機会が転がってるようなものだった。
そうして商人が集まってきて様々な物品を取りそろえてきている。
その流れの中にいるのだから、必要なものを揃える事は難しくない。
まだ周旋屋が居を構える町の方が品揃えが豊富だが、いずれそこを抜く可能性もあった。
それくらい将来の発展性が大きい場所になっている。
本来モンスターが蔓延っているから危険な場所であるにも関わらず。
それも義勇兵が集まって活動する事で危険は幾分下がっている。
損益分岐点というのだろうか。
必要経費が下がってきた事で利益が出るようになってきていた。
今まではモンスターという危険とそれへの対処で経費がかかってしまい、とても商売にはならなかった。
だが、義勇兵が大挙しておしかけ、勝手にモンスターを倒す事で脅威が減った。
安全に移動出来るとなれば、それだけ護衛などの経費も下がる。
利益を上乗せしても買い手がつくくらいの値段を提示できる。
今後国境に兵力が配備されていけば、この状況は更に良い方向に進んでいくだろう。
そんな中にタカヒロ達はいる。
少しずつではあるが、発展する地域にいるのだ。
これほどありがたい事はない。




