228回 妥当で当然の結果であり、不思議は何もない出来事 3
「……引き取れ?」
話を聞いたタカヒロは思わずそう聞き返してしまった。
「なに、新人を俺達が?」
「どうもそうみたいなんですよ」
話を持ち帰った仲間は困惑と呆れを同居させた顔と声をしていた。
さすがに村長も新人がそれほど稼げない事くらいは察していたらしい。
それでも村から追い出す者達にそれなりの仕事をと無理難題を吹っかけていた。
また、タカヒロがそこそこ成功してる事も聞き及んでいたようで、もう一つの無茶を押し通そうとしていた。
それが、タカヒロ達に村の者達を引き取らせようというものだった。
「もともと、村の方で食って行けない連中を町に放り出すつもりだったみたいなんですよね」
「おう、それでそれで」
「でも、簡単に死んだら後味が悪いんで、大将に押しつけようとしたらしいんですよ」
「なるほどねえ」
それでおおよその事情はなんとなく分かってきた。
つまりは、タカヒロに全てを押しつけようとしたのだろう。
村で養い得ない者達を外に放り出すだけだと、やはり評価は下がる。
そうしなくちゃならないとはいえ、そんな事を続けていれば、無能と評価されるだろう。
やむをえない事だと分かっていても、放逐はやはり良い事だと思われる事はない。
村の中からも恨み言の一つは出てくる。
また、村を束ねる領主などからの評価も下がる。
もちろん、そうせざるえない事情があるのは誰もが理解してるので、おおっぴらに文句を言われる事は無い。
評価が下がると言っても、それで村長を罷免という事にもならない。
多少評判が悪くなろうと、村の者達も領主もそれ以外の者達も事情は分かってる。
なので、不平不満が漏れようとも、それですぐに村長の糾弾などになるわけもない。
だが、もし状況を少しでも打開出来れば、一気に評判も評価も上がる。
その為にタカヒロという存在に目をつけたのだろう。
タカヒロが村から追い出す者達を引き受ければ、放逐という形にはならずに済む。
新たに別の村に移住するというだけで終わる。
実質的な間引きと考えられてる周旋屋送りよりは外聞は良い。
だからこそ村長は、タカヒロに村の者を押しつけようとしていたらしい。
「ふざけた話だな」
「まったくですよ」
話を聞いたタカヒロも、町で聞いてきた仲間も揃って呆れた。
あの時、村長を叩きのめして正解だったと思った。
そんなもの押しつけられても対処のしようがない。
仕事が出来る者ならともかく、そうでない者を引き込むほどの余裕は無い。
そもそも、新たに誰かを向かえ入れる予定などこれっぽっちも無いのだ。
押しつけられても困る。
「まあ、順当に行けば、義勇兵の町に行く事になるだろうな」
「でしょうね」
密輸で発展した義勇兵の町は、今はあちこちから流れてきた者達で賑やかになっている。
国境への進出も考え、新人勧誘もしている。
未経験であっても多少は訓練はするという大盤振る舞いだ。
周旋屋の方にも常に募集がかかっているので、タカヒロの村から来た者達はそちらに向かう事になるだろう。
そうでなくても、義勇兵は今は忙しい。
国境がまだまだ落ち着かないのでモンスターが数多く出回っている。
そこそこ大きな集団であるならば、新人を常に加えて補充をはかっていた。
そこに入り込めればまず安泰である。
「頑張ってもらわないと」
同郷の者達についてはそれだけ呟いて忘れる事にした。
ただ、村長の息子の態度だけは、度々思い出して腹を立てた。
(俺の女房にあんな目を向けやがって)
明らかに体を狙ってる目をしてた。
それが許せずに拳を叩き込んだ。
それでも怒りはおさまらない。
(切り捨ててくるべきだった)
生かして帰してしまった事が悔やまれる。
次に出会った時にはモンスターの餌にしてやろうかと本気で考えていった。




