226回 妥当で当然の結果であり、不思議は何もない出来事
必要なものを手に入れ、無いものは注文していく。
いつも通りの買い出しをこなし、周旋屋で一泊していく。
子供が生まれてからは、子供も一緒に連れてくるので、周旋屋は少し広めの個室をとっている。
町に来るのを楽しみにしてる子供達は、このお泊まりを楽しみにしていた。
タカヒロも子供達に町の事を教えるために連れてきている。
子供達に村だけではなく外の事も見聞きしておいてもらいたかった。
タカヒロにはそんな機会がなかったから、なおさら子供には色々と見せてやりたかった。
世界が村だけではない事を知っておけば、考えにも幅が出るだろうと思っての事だった。
もっとも、子供達は今のところそこまで考えてはいないようではある。
単に村より大きな町に興奮してるだけである。
もっともそれはそれで良いとも思っていた。
無理矢理学習に結び付けても効果はない。
必要な事は伝えておくが、あとは本人次第としている。
それで充分でもあった。
そんな所に無粋な声がかかる。
「畑中か?」
周旋屋から出て馬車に向かおうとしところだった。
受付にいる者達がタカヒロに気づいた声をかけてくる。
そのまま無視をしていけば良かったのだろうが、残念ながらタカヒロはそちらに顔を向けてしまう。
そこには記憶もおぼろになっていた村の者達がいた。
村長とその息子であった。
「なんだ、いたのか」
尊大な態度で近づいてくる。
その態度を見てタカヒロは露骨に嫌な顔をした。
「なんだその顔は」
不機嫌さを隠そうともしない態度である。
記憶に残る昔のままで腹が立った。
それは一緒にいる息子の方も同じで、何が楽しいのかニヤニヤとタカヒロ達を見つめている。
どちらかというとタカヒロよりミオの方に目を向けていたが。
「へえ」
そう呟く息子が何を想像してるのかは表情から分かる。
好色そうな顔はミオも不快感を抱いていった。
親子揃って不快感を提供してくれる鬱陶しい連中である。
「丁度いい、話がある」
タカヒロの都合を無視して村長が話を進めようとする。
そんな相手にタカヒロは、無言で拳を叩き込んだ。
出っ張った腹の急所にあたる部分に、モンスター相手に鍛えた一撃が入っていく。
専門的に上げたスコップほどではないが、なんやかんやで戦闘技術はレベル7やレベル8程度までは上がっている。
そんなものを素人が食らえばただでは済まない。
「…………!」
悲鳴をあげる事も出来ずに膝を折る。
それを見ていた村長の息子が驚愕していく。
だが、そんな表情の変化を見せた瞬間に、距離を詰めたタカヒロが拳を顎に打ち込んだ。
衝撃を脳と首に受けた息子は、遠ざかる意識を繋ぎ止める事が出来なかった。
床に倒れた息子は、更に頭を床に叩きつけてしまう。
意識がない状態で倒れたのだ、無意識にとる身を守る動きも出来ない。
それを見た村長は驚きと恐怖とかすかな怒りをもってタカヒロを見上げる。
その顔を見たタカヒロは、不快感の余り足を蹴り上げた。
つま先を喉に打ち込まれた村長は、腹の衝撃も合わさって呼吸困難に陥っていった。
「何様のつもりだ」
苦しげにうめく村長に言い放つ。
低く押し殺した声だ。
相手への敬意などこれっぽっちも示さない態度。
尊大な態度が当たり前と思ってるような素振り。
息子がミオに向けたよからぬ感情。
その全てがタカヒロの逆鱗に触れた。
床にうずくまり、倒れるのは当然の結果である。
それらを見ていたオッサンは呆れはしたが咎める事もない。
その様子を見ていた周旋屋の者達も同じだ。
起こった出来事と、当事者達の人間関係を察したのだ。
周旋屋ではそれほど珍しくもない事でもある。
同郷の者達がかつての村での立場や関係をそのまま持ち込み、間違った態度をとって叩きのめされる。
自分達が町に追い出した者達にどんな事をしたのかを忘れて。
追い出す側からすれば、それは当然であり糾弾される謂われはない、という事であるようだが。
そんな事、追い出されてここで働いてる者達が気にするような事ではない。
両者の考えの違いがもたらす不幸な出来事である。
何せよ、ふざけた態度を取るものは相応の報いを受ける。
村長とその息子に起こったのは、ただそれだけの事でしかなかった。




