225回 予兆か兆候か、とにかく嫌な予感がする
懸念、あるいは胸騒ぎ。
それらは何の根拠もない不安から来るものもある。
だが、それが何らかの予兆である場合もある。
あるいは、何年も忘れていた事を何故か思い出す。
それもまた何かを察知したから、第六感が働いたからという場合もある。
跡になってタカヒロは思う。
なぜだかミオの親の事を、そして村の事を思い出したのも、そうしたものが働いたからなのではないかと。
そう思わせるきっかけは、村の事を思い出してから一ヶ月ほどしてからあらわれた。
町の方に必要な物資を調達しに行った時の事だった。
義勇兵が作った方ではなく、周旋屋のある方だった。
最近は物価も落ち着き、再び商品が出回るようになった。
そうなれば周旋屋のある町の方が便利だったりする。
値段は若干高いが、それも許容範囲。
品揃えの豊富さと、注文した場合の入手確立を考えるとこちらの方が優れている。
そこは昔から様々な人が行き来し、商売を続けてきた者達がいるからだろう。
様々なしがらみがある反面、それゆえの付き合いと顔の広さがある。
だからこその利便性も持っていた。
だが、この時はそれがさほど良い方向に働いてはくれなかった。
「おう、村長」
周旋屋でタカヒロはそう呼び止められた。
周旋屋のオッサンは最近のタカヒロを村長と呼ぶ。
その呼び方にまだ慣れないタカヒロであるが、それでも返事をしていく。
「どうしたの?」
「いやな、お前の事を聞いてきた客がいてな」
「はい?」
何事かと思った。
「確か、お前の出身の村だったかな。
そこから来たって言ってたかな。
話しっていうか相談があるみたいな事を言ってたんだが」
「ふーん」
気のない返事をする。
出身の村の者達が今更何の用なのかと思った。
何に未練もないタカヒロは心動かされる事もなく、むしろ鬱陶しそうな顔をしていく。
「ま、こっちに用はないから放っておいてくれ。
こっちの事は何も伝えないようにな」
「ああ、もちろんだ。
お前さん達の事は何も伝えてない。
連絡がつくなら伝えておいてくれって言われたからこうして声をかけてるだけだ」
「ありがたいな。
ついでに、そいつらが来たらこっちには絡んでくるなって伝えておいてくれ」
「分かった」
オッサンは頷くとそれで話を終えた。
あれこれ根掘り葉掘り聞かないのはありがたい。
それぞれの事情を抱えてる作業員や義勇兵を相手にしてるからだろう。
下手に過去に関わる事に触れると面倒になる事もある。
それが分かってるから余計な事を言わないでいる。
また、余計な問題を発生させない為に、客と作業員を直接接触させない事もある。
特に過去に接点のある者同士が顔を合わせると問題が発生する事もある。
人の関係は良いものばかりではない。
憎み合ってる事だってある。
そんな者達を下手に会わせたら殺し合いが発生しかねない。
距離を置くことも必要な措置である。
周旋屋のオッサンは今回をこのような状態だと判断していた。
そもそもとして義勇兵の大半は家から追い出された者達が多い。
食い扶持がなく、家から追い出され、やむなくなった者達がほとんどだ。
その際に家族がどんな態度をとったかでその後の関係が変わる。
大半は、二度と戻ってこないように酷い態度で追い出される。
そんな者達がどうして故郷や家族に良い感情を抱くだろうか。
大半が愛想を尽かして憎悪を抱くのがほとんどだ。
何らかの理由で村からやって来た者達に斬りかかる事すらある。
なので、出身地の者達に会わせないのは当然の配慮であった。
それに、追い出した者に会いに来るのだ。
よからぬ事を考えてるとみてよい。
死亡率の高い義勇兵だが、生き残って腕を上げればそこそこに稼げるようにはなる。
それを狙ってたかりにくる連中がいる。
それが目当てというのがほとんどだ。
だからこそ義勇兵も周旋屋も故郷からやって来る者達を毛嫌いしている。
嫌うというよりはおぞましさを感じるというべきであろうか。
憎しみよりも吐き気を催すからだ。
蛇蝎のごとく嫌うというよりは、糞尿をみるような感覚と言ってよい。
そんな存在とわざわざ会いたいなどという者はいない。
タカヒロとて用があっても会いたいとは思ってはいない。
義勇兵にとって故郷や家族というのはその程度の、それほどに鬱陶しい存在でしかなかった。




